「よお」
俺は公園のベンチに座るハトノショに話しかけた。
「山田マモルさん……」
「座るぞ」
俺はハトノショの横に座った。
「ごめんなさい……」
ハトノショは暗い表情で謝罪した。
「どーしたんだよ? 何であんなことしたんだ?」
「……山田マモルさんとお話ししたり遊んだりしてて、楽しかったんです」
俺は何も言わず、ハトノショの続きを待った。
「私には、お友達が居ないから……」
「……」
「小さいころから、ずっとずっと『暗い女』だって避けられてて……。現実逃避するために、小説を書いたりして……」
ハトノショは続ける。
「だから楽しかったんです。ほんの僅かな時間だったけど……。私にとっては何年も楽しい時間を過ごしてるような感じがして……。山田マモルさんとお話したりするのが楽しかったんです……。山田マモルさんは、私と普通に接してくれるから……」
「……」
「そんな山田マモルさんが……私から遠ざかっていくかもって思って……」
「……んなことねーよ。同じ高校行くだろ?」
「遠ざかっていくんですよ!」
ハトノショは突然叫んだ。
「山田マモルさんは……どこからどう見ても普通の男子で漫画とかゲームだと絶対的に圧倒的に完璧に地球どころか銀河の果てまでモブみたいな存在だけれども」
なんで急にディスられてんの俺。よくこんなシリアスな展開でディスれるなオマエ。
「私みたいな人間にも分け隔てなく接してくれるから、きっと、お友達がたくさんできると思います。そうなると、私みたいな暗い女の相手してくれなくなるから……。だんだん遠ざかってくんです……」
「……あーバカバカしい」
俺は言った。
「何じゃそりゃ。これだから暗い女は嫌なんだよ」
ムッと、ハトノショが表情を変える。
「アホかおまえは。俺がそんなことするワケねーだろ」
「……え?」
「あー嫌だ嫌だ、暗い女は。そんなこと考えてるから暗い女って言われるんだよ」
俺は立ち上がった。
「そんなに楽しきゃずっと俺を転生させてろ。ただ、そんなことするような暗い女とは二度と話したりしねーから」
「そ、そんな――」
「暗くなんかねーよ」
俺はハトノショの言葉を遮った。
「あのなあ。あんなバカみてーなアイディア浮かぶ奴のどこが暗いってんだよ?」
「そ、それは……だって……みんなが……」
「少なくとも俺には暗いなんて感じねーよ。『暗い女』とか言う奴がおかしーんだよ」
転生バリエーションの豊富さは明らかにおかしいけどね。
「あー、嫌だ嫌だ。俺もう帰るわ」
「ちょ、ちょっと!」
歩き出した俺を、ハトノショが呼び止める。
「良いんですか? 私のご機嫌取らなくて?」
「どーいう意味だよ?」
「私のご機嫌取らないと、私にまた転生させられちゃいますよ?」
「俺は【友達】のご機嫌取ろうとするほど落ちてねーよ。それに、おまえってそーいうことする奴なの?」
え? とハトノショのは薄く反応した。
「へー。ハトノショは【友達】にそーいうことする奴なのか。へー」
俺はハトノショに背を向けて、歩き出した。
「ま、そんな奴っていうんなら勝手にしろ。俺はもう異世界で生きてくから。豪華なログボ貰ってるから向こうで無双できるし。友達も居るしな。ちょっと問題ある二人だけど楽しくやれそーだし」
じゃあな、と俺は背中を向けながら手を振った。
「今のホントですか?」
ハトノショの叫び声が聞こえてくる。
「私のこと【友達】だって、ホントですか? 見捨てませんか?」
ハトノショは叫び続ける。
「他に友達が出来ても、私とずっと【友達】でいてくれますか?」
俺は立ち止まって、
「……高校で待ってるからな」
ハッキリと言い残してから、その場を去った。