「分かった! これみたいに小説の主人公を交代すりゃいいんだ!」
「主人公を?」
「ああ。山田マモルはこれっきりにして、他の主人公にフォーカスを移すんだよ!」
「なるほど! あ、でも主人公を変えると、今度はその人が転生するようになっちゃいますよ。交代した人と同姓同名の人が転生することになるかも……」
「……じゃあ同姓同名が居なきゃ大丈夫なのか?」
「た、たぶん」
つまり余程、変な名前じゃなきゃ――、
って、居たあああああああああああああああああ!
知ってるわ。俺知ってるわそういう名前の奴!
「ヤバいヤバいヤバい! 完全に来たわ! 舞い降りたわ偶然の神が! この世の中に存在しない名前にすりゃ良いんだろ?」
「は、はい。でも居ますかね?」
「任せろ! 俺はもう思いついてるぞ!」
そう、俺は思いついている。
というか知ってる。
この世に存在しないほど変な名前を。
それはリオル・ダ・マオウフニャフニャだあああああああああああああ!
これは来た!
その主人公に交代すれば、この転生物語は終わる。
勝ちパターン来た!
「覚えきれないだろーから書いとくぞ」
俺はノートの切れ端に『リオル・ダ・マオウフニャフニャ』と書いた。
「これ。この名前の主人公にしてくれ」
「凄い! こんなの普通は思いつかないですよ!」
「そ、そーか?」
「そのバカみたいなアイディアはどうやって思いつくんですか?」
あなたに言われたくないんですけど。そのままそっくりお返ししてやろうか?
「……ま、まあ、そんなことは良いからその名前で始めてくれ」
「分かりました!」
ゲームを中断し、ハトノショは小説を書き始めた。
これで俺の転生物語は終わ――、
『山田マモルは息を吸った。何やら嫌なモノを吸ったような感じがす――』
人の話聞いてたあああああああああああああああああ?
「待った待った待った! 何してんの? 何してんの?」
俺はハトノショの腕を掴んで続きを物理的に止めた。
「や、止めて下さい!」ハトノショは俺の手を振り払う。
「それこっちのセリフ! 何でまた俺を主人公にしてんの? リオル・ダ・マオウフニャフニャに代えるって話だろーが! しかももう既に不穏な感じするんだけど! これ確実に転生させにいってるよね? どんだけパターン思いつくんだ! 人類から古代文明守ってる殺戮マシンかテメーは!」
「私はこの転生物語を止めたくないんです!」
「何でだよ! このままだと一生ループして高校生になれねーぞ!」
「良いんですよ、それで……」
ハトノショがあまりにも物憂げに言ったので、俺の勢いは沈下した。
「……何でだよ……。おまえだって頑張って勉強して高校に合格したんだろ?」
「そうですけど……。私は今が……。今がとても楽しいんです……」
「……どういうことだよ?」
「山田マモルさんには……」
ハトノショは続ける。
「山田マモルさんには私の気持ちなんて分からないですよ!」
勢いよく言うと、ハトノショは物凄く速いタイピングで続きを書いた。
『山田マモルは息を吸った。何やら嫌なモノを吸ったような感じがする。そう、吸った酸素の中には、有毒物質【獄炎から生まれし静かな猛毒】が入っていたのだ。その名の通り、有害物質を吸ってしまった山田マモルは、静かに心臓の活動を止めていた』
パッと、舞台が現実世界から異世界の泉に移り変わった。
「ようこそゲロ」
また、ここからやり直しだ。