「いや、待てよ!」
俺はハトノショの背後から、パソコンを操作。
「消せば良いんだよ消せば!」
俺は『BACK SPACE』ボタンで文章そのものを消そうとした。
が、何度ボタンを押しても文章が消えない。
(え、ええええええええええええええええええ?)
け、消せない、消せないいいいいいいいいいいい。
なんか謎の力が作動して消えないんだけど。
「やっぱり消えないですよね……」
ハトノショがポツリと言った。
「どうやら私には、一度書いた文章は消せないという能力があるようです」
なにその余計な能力?
「くそ、しょうがない……。じゃあこっから改変するしかねーな……」
……んーと……えーと……。
…………よし、これで行くか。
『山田マモルは酸素を吸った。山田マモルは知る由もないだろう。その時に吸った酸素の中に【死に至る病】が混入していて、遠くない未来に自分が転生してしまう……なんてことはなかった。それは山田マモルの妄想だった。そう、山田マモルはヤベー奴だからそういう妄想をしてしまうのだ』
かなりヤベー奴になったけど、まあ良いだろ。転生しないよりマシだ。
「凄い! これで回避できますね!」
「……ひとまずな……」
問題はハトノショだ。
「続きを書くなって言いたいところだけど、無理なんだっけ?」
「あ、はい。封印されし右腕が勝手に動いて書いちゃうんです」
なんで封印されてんのに動いてんのか分かんねーけどまあ良いだろう。
「一旦落ち着こうぜ。その間に転生しないような方法考えるとかさ」
「そうですね。他のことに集中してたら書くようなことないんですけど、どうしても小説のことを考えちゃって」
アッと、ハトノショは声を出した。
「あの、一緒にゲームしません?」
「ゲーム?」
「はい! ちょっと前に買ったRPGがあるんですけど、それ友達と協力しなきゃ進めないゲームでして、そのこと知らずに買っちゃったんですよ」
「……そんな悠長なことしてる場合か?」
「ゲームすれば小説の続きを書くスパンが……ううううう!」
突然、ハトノショは右腕を掴んで苦しみだした。
「ど、どうしたんだ?」
「私の右腕が、右腕がうずいて続きを書こうとしてるうううううううううううう!」
右腕全然封印されてねーじゃねえか。動く気マンマンかて。
「分かった分かった! 早くゲームやるぞ!」
「は、はい!」
ハトノショはゲーム機に乗った埃を払ってから、電源を入れた。そして間もなく、テレビにゲームのタイトルが映し出される。
【お黙り♪ ゴッドはこのワタシよ♪ ~キミが絶対に転生するRPG~】
サブタイトルに不穏な空気漂ってるのは気のせい? 大丈夫だよねこれ?
「おい、このゲーム、プレイ中に爆発とかしねーよな?」
「ははっ、まっさかー。山田マモルさん面白いですね。そんなことあるワケないじゃないですかー」
あるワケあったから俺が転生し続けてるのもしかして忘れてるこの人?
「大丈夫ですよ。さあ始めましょう」
「あ、ああ……」
警戒しながら、俺はゲームをプレイ。
主人公の勇者はハトノショ。サポート役のヒーラーは俺が担うことになった。
戦闘システムはコマンド選択式のターン制バトル。味方を一切攻撃できないシステムだ。
ハトノショが敵に攻撃して、俺が回復をするというパターンで、雑魚敵を倒して物語を順調に進めていき……。
「あ、最初のボスですね」
洞窟の奥に潜んでいたボスとの戦闘が始まった。
「よし、じゃあ攻撃頼むぞ。さっき覚えた
「は、はい!」
ハトノショが勇者のコマンドを選んで、
【ハトノショは爆炎剣を放った!】
【しかし謎の引力が働き、剣先が山田マモルに向かう!】
【山田マモルに9999999のダメージ!】
【山田マモルは瀕死状態になってしまった!】
ヒーラーの山田マモルは棺桶のアイコンになった。
「何でだああああああああああああああああああああああ!」
俺は叫んだ。
「おかしいだろおおおお! このゲーム仲間に攻撃できないシステムだよね? なんでテメーがトドメ刺しにきてんの? つーかダメージ量殺意ありすぎだろ! 序盤じゃゼッテー出ない数字叩き出してんじゃねーよ! チートコードでも入力したのかテメーは!」
「ああああぁ……。ごめんなさい、私、どうやら転生癖があるようで……」
転生癖って何?
「小説でも登場人物を転生させないと気が済まなくて……」
そうだとしてもおかしくない? ゲームのシステムにまで影響するってこと?
もうNASAかどっかで研究対象になるレベルじゃねーか。
「あ、でも今回は瀕死になってるだけで転生してないですね! 一歩前進です!」
それは前進してるって言えるのか?
「あと山田マモルさん、凄いですよ!」
「……何がだよ……」
「ほらほら、自分のステータス見て下さい!」
俺は棺桶になったヒーラー、山田マモルのステータスを確認。
【ヒーラーの瀕死状態の効果。勇者のHPが減るごとに自動でHPを全回復する。勇者が一撃で倒されるようなダメージを受けた際、HPは必ず1残る。勇者がHP1の状態で攻撃を受けた時、逆にそのダメージを吸収する】
なんでヒーラーなのに瀕死状態の方が強いの? これじゃほぼ無敵じゃねーか勇者。
「す、凄いです山田マモルさん! ああ、もうサクサク進んじゃいますよこれ!」
だろうね。
「楽しいですね」
不意に、ハトノショがそう言いつつニコッと笑った。とても純粋で、本当に楽しいんだなと感じた。
「……ふん……。まあハトノショが楽しいんなら良いや……。俺をこのまま蘇生させるなよ……。棺桶のままのが強いから……」
「あ、はい!」
ハトノショはどんどん進めていき、物語は一気に中盤へ差し掛かった。
その時、
【ここからもう一人の主人公の物語が始まります。名前を決めてください】
ゲーム画面にそう表示された。
「あれ? これって主人公もう一人居るのか?」
「そのようですね。うーん、名前どうしましょう?」
「そーだなー……」
って待てよ……と、俺はパッと閃いた。
「そうだ! これだ!」
転生を回避する、完璧なアイディアを思いついた。