ハトノショの家に行く道中、
「山田マモルさんは、異世界で生きていく気は無いんですか?」
「無いね。ああ、そこんところは知らないのか?」
「はい。私はただ、山田マモルさんが転生して終わるシーンしか書いてないので」
つまり俺が転生したくない理由とか、気持ちとか、向こうでの事とかは知らないってことか。
「転生したくない理由をお聞きしても良いですか?」
「めちゃくちゃ勉強して良い高校に合格したからだよ。この春から行きたくてたまらないってのに転生するから困ってんだ」
「……因みにどこの高校か聞いても良いですか?」
「○×高校だよ」
「ええ? 私もです!」
「マジで?」
「はい、この春から」
「じゃあハトノショさんのためにも転生しないようにした方が良いって」
「どういうことでしょう?」
「いやいやいや。だって俺がこのまま転生し続けてたら、異世界に行く→現実世界に戻る、の無限ループから抜け出せないぞ? それって俺だけじゃなくて、他の人にも影響してるだろ絶対」
「……ホントだ!」
ハトノショは叫ぶように言った。
「なんだか同じ日を繰り返してる気がしてたんですよ……」
「それそれそれ! それ気のせいじゃないって! 俺が転生しては現実世界に戻るを繰り返してるから進めてないんだって!」
なるほど、とハトノショは呟いた。
「今さっき、山田マモルさんが八十五回目の転生をするまでのアイディアが浮かんだんですけど、没にした方が良さそうですね。勿体ないですが」
八十五回目?
そこまでのアイディアが公園から歩いてる短い間で浮かんだってこと?
こいつ天才か?
「まあいーや。とりあえず転生せずに高校上がったら、ジュースでも奢ってやるよ」
え? とハトノショは意外そうに声を出した。
「……それは本当ですか?」
「ホントホント。んでもって、同じクラスになれたら良いな」
「同じクラス……ですか……」
ハトノショは物憂げに言った。
「でも山田マモルさんだけじゃなくて、他の人も居るんですよね……」
「そんなの当たり前だろ」
「山田マモルさん『には』友達が出来るかも、ですよね……」
「なんじゃそりゃ? どういう意味だよ?」
「い、いえ、何でもありません! 行きましょう!」
ハトノショは歩を進めた。
「……なんだアイツ……」
反応が少し気がかりだった。モヤッとしたまま俺はハトノショの後に続いた。
「ここです」
数分でハトノショが住む一軒家の前に着いた。
「よーし、俺が転生しないアイディア出しまくってやるからな」
「……あのー、ちょっと言いにくいんですけど……」
「ん?」
「実はですね……。山田マモルさんが転生するシーン、十一回まで書き溜めてるって言ったじゃないですか、私」
「……あー、そういえばそんなこと言ってたな。で?」
「すみません、嘘です。実は十二回まで書き溜めてました」
「……は? それって――」
ここで、女性の声で町内放送が入った。
『ピンポンパンポーン♪ えー、ただいまを持ちまして、山田マモルさんはアンドロイドになりました。そしてその活動を維持する電源は、この世界では一秒も稼働できません。ですので、まあ、そういうことです(笑)』
パッと舞台は異世界の泉に切り替わった。
「ようこそゲロ」
カエルの声が、背後から聞こえてきた。
(え、えええええええええええええええええ?)
もう何でもアリじゃねえか。そのバカみてーなアイディアはどっから出てくるワケ?
「これで十二回目ゲロねー」
カエルは言った。振り向くと、そこにはゲーミングチェアに乗ったカエルが居た。のだが、様子がおかしかった。
まず、光の鎧を装備していて、腰には鋼の剣。ここまではまあ、事前情報で知ってはいた。
しかしそれらに加えて、カエルは黒いティアドロップのサングラスをしていた。
「え、えーっと、カエルさん?」
「何ですかゲロ?」
いや何ですかゲロじゃなくて。
「その光の鎧と鋼の剣は俺のだよね?」
「そうですゲロ。でもマモルは要らないゲロ?」
うん、まあそうだけどね。でもやっぱムカつくのよ勝手に使われたら使われたで。
「そのサングラスは何かな?」
「ああこれ? これはマモルの十二回目のログインボーナスの『ヘルサンシャイングラサン』ゲロ」
ヘルサンシャイングラサンって何?
「ヘルサンシャイングラサンを装備すると、すっごい効果を得られるゲロ」
「……どんな効果か聞いても良いか?」
「攻撃力と物理防御力と魔法防御力を20%アップ。素早さ2倍。賢さ2倍。物理回避率2倍。魔法回避率2倍。消費MP半減。物理カウンター(物理攻撃を受けると相手にカウンター攻撃)、魔法カウンター(魔法攻撃を受けると相手にカウンター攻撃)。常に浮遊状態(地面技を受け付けない)。常に『追い風』状態(炎や氷のブレス攻撃を相手に跳ね返す)。HPが減る度に攻撃力を上げる(永続)。更に全ての属性のダメージを半減するようになるゲロ」
強おおおおおおおおおおおおおお。もう裏ボスに挑戦するレベルの性能じゃねーか。
「にしても魔王も大したことなかったゲロ」
大したこと無かったって何? もしかして倒した?
「魔王に続いて、このまま裏ボスもソロで倒しちゃおっかな~ゲロ」
ソロで魔王倒したの? もうリオル・ダ・マオウフニャフニャより救世主してんじゃねーか。
「因みにリオル・ダ・マオウフニャフニャは今、魔王を守る四天王の一人と戦ってるゲロ」
もう戦う必要無いよね。ここに居るカエルが魔王そのものを討伐したよね。四天王はそれに気づかず戦ってるってこと?
「リオル・ダ・マオウフニャフニャ大丈夫かなあ。今戦ってるのが、いくら四天王の中で最弱の一人とはいえ、ソロじゃキツイんじゃないかゲロ」
リオル・ダ・マオウフニャフニャまだソロなの? 武器買ったり終盤の町に行ったりする前に仲間探せよ。
「ボクが助太刀に行こうかなゲロ」
確かにおまえが行けば四天王とか余裕だな。だってヘルサンシャイングラサン装備してるんだもん。もう仲間になれよ装備充実してんだし。