(……誰?)
美青年は鉄の鎧を装備していて、腰には剣を装備している。
「さしずめ、ここに転生してきたってところだね?」
美青年は爽やかな声で言った。
……いや、あんた誰?
「驚くのも無理はない。まあすぐ慣れるよ。僕も最初は戸惑った」
……だから……誰?
「やっぱ初めてだと何も言葉が出ないよね。僕もそうだったよ懐かしい」
いやこれで十一回目なんだけど。ログボで光の鎧貰えるんだけど。ターン終了ごとにHP回復するようになるんだけど。
「あ、あの~、どちら様ですか?」
俺はようやく口を開いた。
「僕はしがない冒険者さ。キミは?」
「山田マモルです」
「山田? マモル?」
「はい、どうかしましたか?」
「……どこかで聞いたような……」
美青年は「うーん」と唸った。
「ええと、ところであなたは?」
「ああ僕? 僕はリオル・ダ・マオウフニャフニャって名前さ」
「へー。リオル……」
って、えええええええええええええええええええええ?
リオル・ダ・マオウフニャフニャああああああああああ?
おまえか。おまえがリオル・ダ・マオウフニャフニャか。
なんでこんなとこに居るの?
この世界の救世主じゃなかったっけ?
「ちょっと初心に帰りたくてここに戻ってきたんだ」
なんかカッケー。容姿もさることながら――、
「一番恐いのは、初心を忘れてしまうことだからね」
言動もカッケーんだけど。
「そう。己の油断こそが最大の敵なのさ」
かっこいいよリオル・ダ・マオウフニャフニャ。さすがこの世界の救世主。俺とはダンチだぜ。
「あ、えっと、リオル・ダ・マオウフニャフニャさん」
「リオルで良いよ。長いだろ?」
リオル・ダ・マオウフニャフニャはウィンクした。所作がいちいちカッケーな。
「えっと、じゃあリオルさん」
「何だい?」
「ここにカエル居ませんでした?」
「ああ。彼なら大層な鎧を身に着けて何処かに行ったよ」
それ俺がログボで貰うはずだった光の鎧じゃねえか。あのクソガエルホントにパクリやがった。
「そういえばあのカエル、僕より良い剣を持っていたな」
それも俺が貰うはずだったログボの鋼の剣。
「『サンキューマッモ』とか言ってたな、あのカエル」
なにがマッモだウゼえな。
「あのカエル、魔王を倒しに行くとか言ってたような……」
無理だろカエル単騎じゃ。地獄の炎かなんかで焼かれてねーかな。
「ところでキミ、僕のパーティーに入る気は無いかい?」
「いやー、それが出来なくて……」
「どうしてだい?」
俺はリオル・ダ・マオウフニャフニャに、全ての事情を話した。
「――ってことでして」
「なるほど。現実世界で転生しないように暮らしたいと」
「そうなんですよー」
「……ん? 待てよ……」
「ど、どうかしましたか?」
ハッ! と、リオル・ダ・マオウフニャフニャは声を出した。
「思い出した! ボクが現実世界に居た時の話なんだけどね。主人公が頑なに異世界転生するって作品があったんだよ。山田マモルっていう主人公だったよ」
「え? ホントですか? そんな偶然あるんですね……」
「……いや、それは本当に偶然だろうか?」
「どういうことですか?」
「もしかしたらその作品の主人公が、キミ自身なんじゃないか?」
言っている意味が解らないのですが。
「つまり、その作品の通りにシナリオが進んでいるから、キミはずっと異世界転生し続けてるんじゃあないかな?」
「ははっ、まっさかー。そんな非現実的なこと――」
非現実的なこと――あるわ。
だってこれまで散々非現実的な原因で異世界転生してんだもん。
あるわ。その線あるわ。
「ちょ、ちょっと! その作品の名前って分かったりします?」
「うーん、それがどうしても思い出せないんだ。なにせネットに投稿された小説だったから。チラッと読んだ程度だし」
「ええええ?」
「でも作者のペンネームなら覚えているよ。かなり特徴的だったし。ネット掲示板でも同じ名前を使っているらしいよ」
「教えて下さい!」
「『ハトノショ』っていう名前だよ」
「ハトノショ……」
……ん? どっかで見たぞ?
ハトノショ……ハトノショ……。
ハトノショ『私も、書いてる小説の主人公が頑なに異世界転生して困ってるんです』
あああああああああああああああああああああああああ!
アイツだああああああああああああああああ!
あの時、掲示板でそう返信してきたやつ!
ハトノショって名前だった!
アイツか! アイツか!
「ほう、どうやら聞き覚えがあるようだね?」
「……はい。もう逃がしません……」
そのハトノショとかいう奴の所に行って、物語を止めさせよう。
そうすれば俺が転生しなくなるはず。
ようやく転生しないための確かな糸口が掴めた。