――は、恥ずかし!白崎のことを思って怒ったって公言してるもんじゃんこれ!
ハタハタと手を仰ぐ私は、顔に溜まる熱を冷まそうとするのだけれど、取れる気配が全く持てない。
それに、あんな真っ直ぐな『ありがとう』は初めて言われたんだけど!
小さい頃は毎回私がありがとうという側で、白崎が私に感謝することなんてまずなかった。
でも言われて初めて気づいた!これすっごい嬉しい!
「すっごい顔赤いけど大丈夫?」
頬杖をつきながら言ってくる山口さんに、私は小さく頷く。
「大丈夫……だと思うけど……あっつい」
「そんだけ赤かったら暑いでしょうね〜」
アハハと目を細めて笑みを浮かべてくる山口さんだけど、その目の奥にはどこか嫌悪を感じる。
……まぁ、そうよね。
高揚感が静まるとともに、山口さんへの同情が湧き上がってくる。
なぜか。そんなの決まっている。
多分2人は中学からの友達で、相当仲が良いと見受けられた。
高校も一緒で、クラスも一緒だから山口さん自身もかなり心を許していた相手なのかもしれない。
だからこそ、この事実を知ってしまったらどういう顔をして坂間くんと会えばいいのな分からないのだろう。
「それよりも注文しよ?私パフェ食べてみたい」
生憎、私は2人の仲を取り持つことはできない。
坂間くんがあんな事を言ってしまった以上、金輪際坂間くんとは話したくない。
だからせめてもの償いだ。
今ぐらいそんな男のことなんて忘れて、私との楽しい時間を過ごそうよ。友達じゃん。
山口さんにタブレットを差し出す私は心の中だけで問いかける。
こんな綺麗事を口にできるのならさぞかしカッコいいのだろう。
けれど、私にはそんな勇気はない。
自分で言っといてなんだけど、山口さんを楽しませれているのかという自信もなければ、面白い場所なんてもっとわからない。
これが逃げだという事はわかっている。
でもそれ以上に山口さんを支えられる気がしなかった。
「そういえば初めてなんだっけ。なら私が思うこの店で一番美味しいパフェを教えてしんぜよう!」
「やった。とびっきりのやつおねがい」
「食のことは任せんさい!」
「た、頼もし過ぎる……」
……うん、本当に頼もしい。
もし私が山口さんと同じ状況に陥ったらこんな笑顔で振る舞える自信がない。
逆に、山口さんが私と同じ状況に陥ったらすぐに謝るんだろうな。
今じゃなくて、ずっと昔に。
もしかしたらあんなことを言わなかったかもしれない。
……まぁ、私は言ってしまったからこうなってるのだけれど。
タブレットから視線を上げてみると「どこだったかなぁ」と楽しげに言葉を口にする山口さんが電子盤を操作するのが視界に入る。
でも、やっぱり表情はどこか儚げで、悩んでいる様子が伺えた。
「あっ、これこれ」
タブレットに乗ってある画像を指差す山口さんの視線と私の視線が交わる。
「どれどれ」なんて言葉を口にしながら私はタブレットにある画像へと視線を落とした。
「すっごい美味しそう……」
主に抹茶を使用しているのだと思う。
緑色が目立つパフェは黒い器に入っており、わらび餅やらソフトクリームやら色んなデザートが乗っていた。
退院したのはいいものの、私はあまり甘いものは口にしなかった。
理由は色々とあるけど、1番の理由は病院で禁止されてたから抵抗があったのよね。
でも、この前お母さんが作ったプリンを食べた時に私は悟ったの。
なんで今まで甘いものを食べなかったんだろう?ってね。
だから私の口元からは思わずよだれが垂れそうになり、慌てて手で拭う。
「甘いものめっちゃ好きじゃん」
「めっちゃ好き……」
「アハハ、いいね。今度一緒にもっと美味しいパフェ食べに行こっか」
「ほんと!?」
「ほんとほんと。一緒に行こうね」
「うん!」
大人びた顔で、まるで子どもを相手するようなはにかみを見せる山口さんとは違い、先ほど引っ込んだはずの高揚感が再度湧き上がってくる。
だって嬉しいじゃん!
今日ですら初めての遊びで嬉しかったのに、また遊びに行けるって考えたら嬉しいじゃん!
「分かりやすく頬緩ますねぇ」
なんて言葉を口にしながら、私の代わりにパフェを頼んでくれる山口さん。
そしてドリンクバーも頼んでくれたのだろう。
ソファーから立ち上がり、自分でも分かるほどにニヤついている私を見下ろしていってくる。
「ジュース取りに行こっか」
「うん!」
やっぱり山口さんは最高の友達だ。
私も山口さんのことを見習っていこう。
だから今度――今週の土曜日に謝ろう。
あの時はごめんなさいって。その時になにを言われようが、私の意思はこれだよって表明しよう。
そしてもし、山口さんが誰が見ても分かるほどに悩んでいたら私が助けてあげよう。
最高の友達を守るためならもう一度坂間くんにビンタをお見舞いしてやる!