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第22話 私は音痴ですよ!

「隣の部屋だいぶ騒がしくなったね」


 マイクを置いた山口さんの言葉に釣られるように、私も騒がしくなった壁を見やる。

 声からして分かるけど、隣の部屋には男子が入ったみたい。


 主に1人の男子が中心となって歌い、たまに騒がしさが収まる時があるのでその時は別の人が歌ってるのだろう。

 カラオケに来るのは初めてだからわからないけど、こんなに声って漏れるもんなんだ……。


「いやこれは漏れ過ぎだよ。普通はこんな漏れない」

「えっ、あ、そうなんだ」


 私の心を読み取ってきた山口さんはソファーに体重を預ける。

 そんな言葉に胸を撫で下ろした私はオレンジジュースで喉を潤した。


「んにしてもやっぱりカラオケは楽しいねー!ストレス発散になるよ〜」


 蹴伸びをしながら口を開く山口さんにコクコクと首を振ってコップを机の上に置く。


 初めて山口さんの歌声を聞くけれど、すっごく上手いの一言に尽きる。

 90点超えなんて当たり前で、コブシ?やビブラート?がすごい出ていた。


 私もあんな声出せるかな?なんてことを思いながらマイクを握って歌ってみたのだけれど……うん、察してください……。


「そんなげっそりしないの〜。西原さんは声が出せてないだけで音程はちゃんと取れてるよ?」

「ほ、ほんと?」

「ほんと〜。恥ずかしさが勝っちゃってるから慣れたらすっごい上手になるよ〜」

「な、なら頑張る……!」


 フンッと意気込みをするかのごとく右手を握った私はマイクを握る。

 そしてタッチパネルを操作して5年前ぐらいに流行った曲を入れた。


「うわっ、その曲久しぶりに聞く」


 溜まっていたストレスが相当晴れたのだろうか?

 心做しか、いつもよりもほんわかとした口調で言ってくる山口さんの表情は常に微笑んでいる。


 もちろんそんな山口さんに嫌な気なんてしないし、むしろ私まで頬が緩みそうになってしまう。

 やっぱり笑顔はいいね。周りの人まで元気になっちゃう。


 なんてことを感じながら前奏が終わり、体を揺らしながら歌い始めた。



「――分かってました。分かってましたよ……!」


 湧き上がってくる悔しさをマイクを握ることで発散しながら画面に映し出される数字を見やる。

 さすれば『79.390』とデカデカと書かれているのが目に入った。


「伸びしろはあるよ〜。AIも言ってるけど、リズムはちゃんと取れてるしね」


 確かに点数の下にあるアドバイスには『リズムは取れてるけど、声が張れていないよ。腹式呼吸をイメージしよう』と書かれている。

 でも!一生懸命歌ったの!


「あぁ〜そんな落ち込まないの〜」


 対面のソファーからこちらへと駆け寄ってくる山口さんは私の背中を優しく擦って励ましてくれる。


 もちろんそれは嬉しいし、自ずとやる気も湧いてくる。

 けど!比べちゃうじゃん!山口さんもそうだけど、ここにいない白崎と!


 小さい頃病院で、私みたいな子どもたちを楽しませるために行われたカラオケ大会。

 そりゃみんな練習なんてしないのだから60点や70点が当たり前で、高くて80点だった。


 でも、そんな中なぜか白崎が歌ったのだ。

 病にもかかっていないし、入院中でもないのに。


 もちろん当時の私はすっごい嬉しかったよ?

 大好きな幼馴染がみんなの前で歌って、90点超えを叩き出したんだから。


 生憎歌えるほどの元気もなかった私はまるで自分のことかのように喜んだ。

『1番!すごい!』ってね。


 今でもちゃんとすごいと思ってるし、尊敬だってしてる。

 揚々と歌っていた白崎がすっごくカッコいいと思ったよ?


 だから私だってあんなふうに歌いたい!

 もし仲直りできた時に白崎を驚かしてやりたいじゃん!


 グッとマイクを離した手を握る。

 そんな光景を首を傾げながら見ていた山口さんは不思議そうに口を切る。


「なんかあったの?」

「んー……嫉妬……かな?」

「嫉妬……?もしかして私だったり……」

「違う違う!山口さんにそんな感情は抱かないよ!」

「それはそれでどうかと思うけど……まぁいいや。それよりもデュエット曲歌っちゃう?」


 私の背中から手を離した山口さんは2つのマイクを手にとって片方を私に差し出してくる。

 そんな山口さんの目を見れば心配の眼差しなんてなく、どちらかと言えばはにかみが目立つ。


 もしかしたら私のことを元気づけようとしてくれているのかもしれない。

 私もこれ以上雰囲気を重くしたくないので「歌っちゃう」と言葉を返してマイクを受け取った。

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