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第六集 運命のつがい〜蠱道秘籍〜

 あお率いる亜細亜女子聖剣詩舞社による初の海外公演が終わった。帰郷するのを残念がっていた弟子たちは、あおの話しに耳を傾けていた。


「実は活動の拠点をこの国の穂城にしようと思っているんだ。元々華國へ移住するつもりがあったしね」

 スンは予想外のことに即答した。

「少なくとも私は歓迎するが。本当に故郷を去るつもりなのか、孤独な道だ」

「両親は芸道の世界でかなりの権力者だったから祖国に僕の居場所なんて無いのさ。どのみち唐人街にばかりいたのだから、いっそこちらに住むほうが潔い。一度祖国に戻って所用を済ませてきたら戻ってくるよ」


「待て、中山あおよ」

 声の主を見ると、金剛流吸気会の者たちがいた。

「和人街に目立つ見せ物があると聞いていたが、なんと毒虫と知り合いだったか。はみ出し者同士でお似合いなことだ」

「また一勝負始める気か」

「江湖の武芸世界に生きる者として、邪教団に好き勝手させるわけにはいかんのだ」

 金剛砕は気の力で銀毛狼を吸い寄せた。首根っこを掴むと銀毛狼の顔が歪んだ。そして反対の手で奥義金剛砕を放つと、正面から直撃したあおは大きく後ろに吹き飛ばされた。


「蠱道秘籍は貰ったぞ」

 スンの胸元から秘籍が吸い寄せられ、金剛砕の手に渡った。すると劇団員の五穀一揆盟が一斉に鉄扇を投げ、回避した金剛砕の手首にあおが斬撃を加えた。掴まれていた銀毛狼はぐったりと倒れ、秘籍は地面に落ちた。スンが素早く秘籍を拾うと書が開き、中の文章が目に入った。


『これを読む者の陰陽の気は極めて高まる。陰の者は比類無き防御力を備える。また番の者を引誘し、子を身籠ることが可能となる。陽の者は人外めいた剛力や俊足を得る。また番の気配に敏感となり、子を宿すことが可能となる。蠱術の練度は研ぎ澄まされるであろう。但し奥義を濫用し陰陽の調律を乱す事態には注意すべし』


 膝をついてうずくまると、甲虫類のような白い外骨格がスンの身を覆った。

「まるで見たことの無い技だ。それが秘籍の力か」

 再び奥義金剛砕を放つも、スンの装甲がすっかり衝撃を吸収した。


 銀毛狼も秘籍を読むと、爪と牙が獣のように伸びて、獰猛な顔つきで唸った。前傾姿勢に構えると消えたような速度で踏み込んだ。銀毛狼は吸気会の黒帯門下生たちを瞬く間に引き裂いていった。すると金剛砕は去っていった。

「状況判断に優れた奴だ」


 スンと銀毛狼は見つめあった。するとスンは頭を抱え、また過去に見た夢の光景が広がった。

「銀毛狼? いや違うぞ。衣服が彼の部族の物とは異なる。もしや、これは前世の記憶か?」


「おいスン、しっかりしろ。お前には何が見えてるんだ?」

 スンはため息をついて首を左右に振った。

「それは私にもわからぬ。だがきっと銀毛狼は私にとって運命で結ばれた、つがいのような関係性なのだろうという確信だけが感じられる」


 目の泳いだスンを銀毛狼はそっと抱き寄せた。

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