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第ニ集 僵尸禍〜キョンシーに襲われて〜

 スンとリンは銀毛狼の住む竹楼で、薬草を使った治療を受けていた。生活の至る所に竹材が取り入れられており、米や猪を食す点にも親近感が持てた。酒は白濁としており、甘みがあった。


「泊まっていけ。近ごろ不吉な予感がすると言って巫女が体調を崩すことが増えた。協力して厄災を乗り切りたいのだ」

「しかし我らに対する弾圧は特別だ、きっとあなたにも迷惑がかかるであろう。何せ生まれた集落においても毒夫呼ばわりされ、石で打たれることすらあったのだからな」


「見ろ、この髪を。村でこんな色をしているのは俺一人だけだ。子どもの頃はみんなからいじめてきた。お互い似た者同士ではないか」

「どうしてそんなことをするのだろうな。とても美しいではないか」

 スンは銀毛狼の髪を掬った。

「そんなことを言われたのは初めてのことだ」

「まるで絹糸のようではないか」

「スンこそ、なめらかな肌をしている」

 肌をさすられたスンは吐息が漏れ、羞恥心から壁の方を向いた。銀毛狼は灯りを消した。壁に映る一組の影が近づくと、顔同士が重なった。


 その時背筋に悪寒が走った。土を踏むような音がした。外から嫌な気配が感じられて、スンは窓の方に近づいた。

「離れた方が良い。このあたりは僵尸がよく出るぞ」

 銀毛狼は竹まくらを解体して中のもち米をスンに分け与えた。すると外から叫び声が聞こえた。

「逃げろ! 僵尸だ!」

 妖気の薄い窓を蹴破ると、二人は外へ飛び出した。


 外では僵尸の大群が跳ねており、村人たちを襲っていた。すでに首筋を噛まれた者が何人も地面に倒れていた。スンは銀毛狼を抱くと前方に飛んだ。

「危ない銀毛狼、上を見ろ!」

 空から急降下したキョンシーの襲撃を回避した。上空では洞窟内のコウモリのように飛僵が羽ばたいている。飛僵は犬の威嚇のような唸り声をあげて木々を渡っていた。空からもう一度襲いかかったところを、リンが麻痺効果のある蠱で対空した。


「手に負えん数だ。逃げよう」

 三人は最も僵尸の数が少なそうな箇所へと走り、襲いかかる僵尸にもち米をまいた。もち米に触れた僵尸は甲高く鳴き、ひるんだ隙に大群の隙間を駆け抜けた。脱出に成功して安堵の声が出た。しかしスンは師の安否が気になり、無事を祈った。

「道観へ行って道士から話しを聞いてみよう。何か知っているかもしれん」


 三人は漢族の住む地へ向かった。道観を訪ねると、一人の道士が負傷者を診ていた。弟子たちは道具を求めて室内を駆け回っている。

「客人の方たち、もしや噛まれましたか」

「情報を求めて参りました」

 今は話しどころではなかった。僵尸に噛まれた者たちが押し寄せている。

「私も蠱師の端くれ、助力したいので解毒に必要なものをお借りしたい」


 棚に置かれた金属製の容器には薬草類や鉱物の他に虫や爬虫類も入っており、造蠱に必要な材料が見つかった。治療に加わると机には鶏卵が置かれていた。銀針を患部と卵に刺して毒素を吸った。


 銀毛狼も村に伝わる薬草粥を作り、僻邪用の吊るし大蒜を編んだ。師弟は懸命に治療を手伝った。


 気づけば夜が明けていた。これで暗くなるまでは僵尸に襲われることはないだろう。疲労困憊した者たちは倒れるように眠りについた。

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