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91. 温泉旅行

91. 温泉旅行




 あたしは今部室にいる。今日は早く結愛先パイに会いたい。いつもだけど、今日は特に早く会いたい。それは昨日商店街の福引きで一等の温泉旅行を当てたからだ。両親にあげようとしたら、いつもお世話になっているから結愛先パイが良ければ一緒に行ってきたら?と言ってくれた。


 だからあたしは今こうして結愛先パイを待っているのだ。……あぁ、早く来ないかな。そわそわしちゃう。もう授業終わってから30分くらい経つんだけど……まだかなー。


 扉を開ける音が聞こえて、その方向に目を向けると結愛先パイが入ってきた。結愛先パイの姿を見た瞬間、あたしの心は跳ね上がった。そして駆け足で結愛先パイの元に向かう。


「結愛先パイ!お疲れ様です!」


「えっええ。どうしたのそんなに嬉しそうな顔して?何か良いことでもあったのかしら?」


「はい!実はですね……」


 あたしは結愛先パイに一等の温泉旅行のことを説明した。すると結愛先パイも喜んでくれて、二人で温泉旅行に行く計画を立てることになった。結愛先パイと話しながらあたしはふと思ったことを口にする。


「でも良かった。結愛先パイに用事があったらどうしようかと思いました。」


「週末の休みは基本あなたと一緒にいるじゃない。用事があれば前もって言っておくでしょ?」


「そうですよね。楽しみだなぁ。週末。」


「今日はまだ月曜日じゃない。」


 確かにまだ月曜だ。それでも楽しみなことに変わりはない。結愛先パイと話しているだけでこんなにも楽しい気持ちになるんだもん。そんなことを考えていると結愛先パイのスマホが光る。そして結愛先パイが確認すると少し嬉しそうな顔をする。誰からだろう?


「どうかしました?」


「ちょっと待ってなさい。すぐに終わるから。」


 そう言うと結愛先パイは自分の席に座ってメッセージを打ち始めた。その横顔はとても楽しそうだ。えっ……。あたし以外にそんなに楽しそうな相手いるの?


 それともあたしには言えないような相手が出来たとか!?もしや浮気!?ダメだよ!!あたしというものがありながら他の女に手を出すなんて!!!……あたしが言える立場でもないけどさ。ぐるぐると考えているうちに結愛先パイがメッセージを送信していた。うぅ……。気になる……。


「あの……誰からですか?」


 恐る恐る聞いてみると結愛先パイはキョトンとした表情をしてこちらを見る。


「誰って……?私が誰かと連絡をとるとおかしいかしら?」


 おかしい。結愛先パイはぼっちだもん。強いて言えば真白先パイくらいでしょ?同学年で仲がいい人なんて。怪しい……。怪しさ満点だぞぉ……。


 あたしが疑心暗鬼になっていると結愛先パイはクスリと笑った。そしてゆっくりと口を開く。


「もしかして嫉妬してるの?可愛いところあるわねぇ。安心してちょうだい。私が好きなのはあなただけよ。」


「そ、そういう訳じゃなくて!ただ単純に気になっただけです!」


「あら?違うの?なら教えてあげる。紗奈からのメッセージよ。」


「紗奈さん……?」


 なんで紗奈さんとメッセージを……?結愛先パイが中学生の時に好きだった人だから余計に怪しい……。結愛先パイは更に衝撃的な事を言う。


「忘れちゃうからって、『結愛。誕生日おめでとう』ですって。私の誕生日は11月7日なのに。気が早いわね。」


「誕生日……?」


 あたしはとんでもないことに気づく。そういえば結愛先パイの誕生日聞いたことなかった!どどどどどうしよう!!あたし何も準備してないよ!!これじゃ彼女失格じゃん……。


「どうしたの凛花?」


「結愛先パイなんで言ってくれないんですか!?」


「聞かれなかったから。あなたお小遣いないってこの前言っていたし、余計な事考えるのは可哀想だし。」


 そっか……。あたしの事を考えて黙ってくれていたんだ。嬉しいけど悲しい。もっと頼ってほしいのに。結愛先パイにプレゼントを買いたいけどお金がない。あたしが悩んでいると結愛先パイはポンッと頭に手を置いてくる。


「大丈夫。あなたの気持ちだけでも十分すぎるほど嬉しいわ。ありがとう。」


「でも……。」


「それなら私の誕生日は温泉旅行の日だから、あなたがデートプランを考えて?」


 結愛先パイはあたしの手を握ってニコッと笑う。結愛先パイの笑顔を見てるとなんだか落ち着く。それにあたしが考えたデートプランで結愛先パイが喜んでくれるのならすごく幸せだ。


 あたしは結愛先パイの手を握り返す。こうして、あたしは結愛先パイとの週末の温泉旅行に向けて色々と計画を立てるのでした。

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