87. 発情期
あたしは学校に向かう道を歩いている。周りを見渡すとそこらへんのお店がハロウィン一色だ。もしあたしがコスプレするなら何の衣装が似合うかな?
魔女、黒猫、ドラキュラ、ゴースト……女の子なら天使とか赤ずきんちゃんとかもあるか。結愛先パイとかドラキュラが似合いそう。でもやっぱり可愛いから魔女の方がいいかも。
そんなことを考えながら歩いているとあっという間に学校に着いてしまった。教室に入ると春菜ちゃんが話しかけてくる。
「ねぇねぇ凛花ちゃん。今日放課後ヒマ?私とお茶しない?」
「うん。今日は結愛先パイが用事があるから部活ないし。いいよ。」
「やった!じゃあ決まりね!」
春菜ちゃんが私を誘うのはめずらしいな……。またなんかお願い事でもあるのかな?まぁいいか。
◇◇◇
そして放課後、春菜ちゃんと一緒に近くの喫茶店に入った。最近できたお店で内装もオシャレで落ち着いた雰囲気だ。
「うわぁー美味しい。この紅茶すごく香りが良いね。」
「ほんと。こっちのケーキもおいしい。」
二人で色々おしゃべりしながらティータイムを楽しんでいると、春菜ちゃんがふと思い出したように言った。
「ねぇ凛花ちゃん。お願いがあるんだけどさ……。」
「お願い?」
「今度新聞部の活動でハロウィンパーティーを取材しなきゃいけないの。ほら普通にお店とかじゃ、なんかあった時怖いんだよね……だから……」
「結愛先パイの家でハロウィンパーティーやりたいからお願い出来ないかな?ってこと?」
私が聞くと春菜ちゃんは大きく首を縦に振った。やっぱりね。ハロウィンパーティーか……結愛先パイ嫌がりそうだけど。普通に行くのは歓迎してくれると思うけど、コスプレとか絶対やってくれなそうだけど……。
「春菜ちゃんの頼みだもん。結愛先パイにはあたしの方から話してみるよ。」
「ありがとう!良かった~。これで安心して記事書けるよ!」
それからしばらく二人でおしゃべりをして、お互い満足したところで店を後にした。
「それじゃあ私は帰るね。凛花ちゃんバイバーイ!」
「うん。また明日ね。ばいば~い。」
あたしは家に帰ることにする。とりあえず明日結愛先パイに話してみるか。そして次の日の放課後。あたしは結愛先パイにハロウィンパーティーの件を話してみる。
「別に構わないわよ。それより私の家でいいのかしら?そんなに広いわけでもないのだけど。」
「えっ!?いいんですか!?ドラキュラですよ!?」
「なんで私がドラキュラなのか分からないのだけど……。日下部さんにこの前の文化祭のお礼もしてなかったしね。協力させてほしいわ。それならパーティー用に料理もみんなで作りましょうか。予定がなければお泊まりでもいいわよ?ハロウィンは週末だし。」
意外に結愛先パイは乗り気だ……。これは予想外だったな。とりあえず春菜ちゃんにメッセージを送っておこう。
「誰が来るのかしら?日下部さんと麻宮さんと水瀬衣吹かしら?」
「はい。なんで衣吹ちゃんだけフルネームで呼び捨てなんですか?」
「そんなの嫌いだからに決まってるでしょ?向こうだって私のこと嫌いでしょ?」
……うーん。確かにそうなんだけど、そこまでハッキリ言わなくても良いんじゃない?
「あっそうだ。ちなみにあたしは何の仮装が似合うと思いますか?」
「そうね……。黒猫なんてどうかしら?魔女も良いかもしれないけれど、猫耳着けた凛花は可愛いと思うわ。」
「にゃあ。にゃんって感じですかね?」
あたしが手を招き猫のようにしてポーズを取っていると結愛先パイが立ち上がりあたしに詰め寄ってくる。
「なっなんですか?」
「それは反則よ。私のこと誘ったつもり?」
「ちがいますよ!そんなつもりじゃありませんよ!発情期ですか!?」
「仕方がないじゃない。こんなに可愛い猫が目の前にいたら我慢できなくなるもの。」
そして結愛先パイはあたしのことをギュッと抱きしめてきた。そのせいであたしの顔が真っ赤になる。
「ちょっちょっと!ここ学校ですよ!誰かに見られたらどうするんですか!離してください!」
「大丈夫よ。私たち付き合ってるんだから問題はないでしょう?」
「そういう問題じゃなくてですね……。結愛先パイに抱きしめられると心地よくて頭がぼーっとしてくるんです!」
「……発情期?」
「違います!!」
そう意地悪を言いつつも結愛先パイが手を緩めたのであたしは慌てて離れる。まったくもう!油断も隙もない!
「あっ良いこと思い付いたわ。凛花。ちょっとついてきて。」
「結愛先パイ?」
そう言う結愛先パイ。あたしはどこに行くか知らされずに、黙って結愛先パイについていくのでした。