86. Story.7 ~【流星群に願いを】~④
【小説:流星群に願いを】
ねぇ葵覚えてる?私とあなたが初めて出会ったあの雨の日の事。私はあの時、あーなんで雨に濡れてるんだろう?くらいの気持ちであなたに傘を渡したの。まさかあなたが余命宣告を受けたなんて知らずにね。
しばらくあなたは私の前で痛みに耐えながらも笑顔をくれたね。
あなたのお見舞いに行くたびに元気そうにしているあなたを見て嬉しかったよ。でもね、その度に私の心には不安な思いがあったんだよ。だって私からしたらあなたの余命はとても短いものなんだもん。
そんな時にあなたからデートのお誘いが来た時は本当に嬉しかった。だから、この日のために頑張って服を選んだりメイクの練習もしたんだよ。
そして待ち合わせ場所に着いたら、あなたはもうそこにいて私を待っていた。あの時のデートは今も忘れない。
もう時間だ。流星群が目の前に降り続ける。私は『あなたの病気が治りますように』とは願わない。だってそれは無理な話だから。
だから一つだけお願いを叶えてほしい。葵が『最後まで幸せ』でいれるように。それだけを無数の流星にお願いするのだった。
-小説実演-
あたしは目を覚ます。部屋は暗い。急いで時計を見ると午後9時になっていた。熱はだいぶ下がったみたい。あたしはそのままリビングに向かうと結愛先パイが小説を読んでいる。
「凛花。具合どうかしら?」
「だいぶ良くなりました。熱も下がったみたいだし。」
「今日は冷えるから、上を羽織りなさい。」
と言って、結愛先パイは自分の着ていたカーディガンを貸してくれた。結愛先パイの温もりと匂いに包まれる。とても安心できる感覚。
そのまま二人でテレビを見る。するとニュースでは今日の流星群の話題だ。
「夜中らしいわよ。流星群。間に合って良かったわね凛花。」
「はい。良かったです。」
そして流星群が見れる時間まで結愛先パイと雑談をしながら待つ。0時を少し回った頃だろうか、窓の外が光った気がした。そのまま部屋の部屋の明かりを消す。その窓から見える星空はとても綺麗に見えた。結愛先パイはそっとあたしの手を握ってくれる。その手はとても暖かくて心地いい。
そして二人だけの空間の中、あたし達は手を繋ぎながらただひたすら流れ落ちる流星を見続ける。とても幻想的でまるで夢の世界に居るような気分になる。
「すごい綺麗……。あっお願い事しなきゃ!」
「ふふっ。何をお願いするのかしら?」
「内緒です。教えたら叶わなくなるんですよ結愛先パイ?」
「あら残念。私も一緒にお願いしようかしら?」
それからしばらくして、また星が流れる。
今度はさっきよりも長い時間だ。あたしは目を瞑って願い事を心の中で言う。それは『結愛先パイとずっと一緒にいたい』というお願いじゃない……。
それとは別の……。
そして隣にいる結愛先パイの方を向くと、結愛先パイも同じタイミングでこっちを向いてくれた。目が合うと自然とお互いに笑みがこぼれる。
「結愛先パイは何をお願いしたんですか?」
「あなたは言わないのに私は言うの?ずるいわね凛花は。」
「教えてくださいよぉ。」
「……秘密よ。」
結愛先パイの顔が赤い。これはきっと熱があるんじゃなくて恥ずかしいんだろうなぁと思う。そう思ったら急におかしくなってクスッと笑いが漏れてしまった。そんなあたしを見て結愛先パイも笑う。あたしはこの時間がいつまでも続けば良いのにと思った。だけど時間は止まってくれなかった。また次の星が流れ始める。
それが何度も繰り返される。そして最後の一つの星が流れた後、あたし達の目の前には数え切れないほどの星が輝いていた。
何百年に一度という奇跡。一番綺麗な流星群を見られたかもしれない。そう思いたい。これからは、この景色を忘れないようにこの思い出を胸に刻んでいこう。
「終わっちゃった。」
「そうね。あのね凛花。」
「何ですか結愛先パイ?」
「私達はまだ始まったばかりよね?」
「はい!そうですね。」
結愛先パイはあたしをギューッと抱きしめてくれる。結愛先パイの体温は温かい。あたしは静かに目を閉じる。この人はあたしにとってかけがえのない人。結愛先パイと一緒ならどんな困難でも乗り越えられる。だってあたしは幸せだから。
あたしの願いは『結愛先パイが幸せになること』。もちろんそこにあたしがいるなら、すごく嬉しい。だからあたしは願う。結愛先パイが幸せになれますようにって……。
でもあたしは欲張りだから、できればあたしも一緒に幸せになりたいなって思っちゃうんだ。この先の未来はそうなってほしいという願いを込めて……