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68. Anotherstory.5 ~【隣で輝き咲く一輪花】過去~

68. Anotherstory.5 ~【隣で輝き咲く一輪花】過去~




 無事、スピーチ大会を終えて成功とはいかなかったけど、小説演劇同好会の存続が決まった翌々日。来月行われる文化祭、花咲学園祭についてクラスの出し物の話をしていた。今はクラス全員からアンケートをとって集計中だ。


「さて、皆さんの意見を聞かせてください」


 委員長がそう言うと、みんなは一斉に手をあげた。


「はい!喫茶店!」


「お化け屋敷とかやりたい!」


「メイド喫茶希望!」


「えーっと……俺は何でもいいかなぁ」


 色んな意見が出たけど、大体喫茶店かお化け屋敷みたいだ。まあ定番だよねぇ……。ちなみにあたしはというと……特にこれといった案は思い浮かんでいない。そもそもこういうイベントごとが苦手なのだ。あたしに出来ることなんてないと思うし。


「う~ん、なかなかまとまりませんね……」


「じゃあさ!あみだくじ作って、そこから多数決取ろうぜ!」


「それなら早く決まるかも!」


 男子たちが楽しそうに話している横で、あたしはぼんやりとその光景を見つめていた。結局あみだくじの結果、あたしたちのクラスは喫茶店をやることになった。


 ただこの人数だとかなり忙しいだろうなぁ……。接客係も料理担当も結構大変そうだ。まぁあたしは与えられた役割をやるだけだけどもね。


 そして放課後になり、いつも通り小説演劇同好会の部室に向かう。今日はどんな話をしようかなぁ。それより昨日春奈ちゃんと一緒に買った【隣で輝き咲く一輪花】を結愛先パイと一緒に読んでもいいよね。と思いながら扉を開ける。すると見知らぬ女子生徒がいた。


「あっこんにちは。」


「こんにちは……えっと……」


「ああ、気にしないで怪しい者じゃないから。私は塚原紗奈です。よろしくね。」


「あっ新堂凛花です。」


 なんでよく分からない人がいきなり、この小説演劇同好会にいるの?あたし普通に名前名乗っちゃったし。よく見たら制服違うよね?転校生?あたしが戸惑っていると結愛先パイがやってくる。


「凛花。なに入り口で突っ立ってるの?中に入りなさい」


「結愛……」


「えっ……紗奈……」


 なんだか気まずそうな顔をする二人。二人は知り合い?結愛先パイがこの人とどういう関係なのかわからないけれど、とりあえず席に着くことにした。しばらく沈黙が続いたあと、紗奈さんが口を開いた。


「中学校の卒業式以来だね。元気だった?」


「ええ。」


「そっか……良かった。」


 なんか微妙な空気感だしてるんだけど……。あたし……場違いじゃない?一体何があったんだろ?そんなことを思っていると、結愛先パイが説明してくれた。


「凛花。彼女は中学校の時の同級生よ。」


「そうなんですね。ビックリしました知らない人がいきなり部室にいたので。結愛先パイのお友達なんですね。」


 結愛先パイとあたしがやり取りをしていると紗奈さんは呟く。


「同級生……か。ずいぶん冷たくなったなぁ結愛は。」


「紗奈さん?」


「私は結愛のこと、すごく心配してたのに。あの事があったから。」


 あの事ってなんだろう?それにしても本当に不思議な人だ。結愛先パイのことをずっと見つめている。そしてどこか悲しげな表情を浮かべている気がした。あたしが結愛先パイを見ると目が合う。それを察したのか結愛先パイは紗奈さんに言う。


「紗奈。用事がないなら帰ってくれない?部活の邪魔なの。」


「今はその子が大切なの?結愛。」


「……そうよ。あなたには関係ないわ。もう私のことは放っておいて。」


 そう言って紗奈さんの目の前に立つと冷たい視線を向ける。そんな結愛先パイを見たことがないあたしは思わず息を飲む。こんなに怖い顔初めて見たかも。でも紗奈さんは全く動じていない様子でじっと見つめ返していた。しばらくして紗奈さんが立ち上がる。


 そのまま何も言わずに部室を出て行った。その様子を見ていたあたしは声をかけることも出来ずに立ち尽くしてしまう。


「ごめんなさい凛花。変なところ見せちゃったかしら。」


「いえ……大丈夫です。それより紗奈さんって?」


「そうね……【雪月花】のヒロインと言えばわかりやすいわね。簡単に言うと昔私が好きだった人よ。」


 あの人が……中学生の時に結愛先パイの好きだった人。そして告白出来なかった人。その話を聞いて胸が苦しくなる。あんなに素敵な人が……結愛先パイは本当にあたしの事好きなんだよね?紗奈さんとあたしじゃ全然違う。なのに……。あたしは黙り込んでしまった。そしてその場から逃げることしか考えられなくなった。


「あっあの、あたし用事が……ごめんなさい。また明日!さよなら!」


「あっ凛花!」


 結愛先パイの声が聞こえてきたけど、あたしは無視して部室を出た。あたしは走って家に帰る。途中で涙が出てきた。どうしてこんなに辛いのだろう。結愛先パイの昔まで干渉してどうするんだ。頭ではわかっているけど、気持ちが追いつかない。


 結愛先パイからの着信。何回も。でも。出れない。出る勇気もない。あたしは途方に暮れて近所の公園のベンチに腰掛ける。


 すっかり辺りは暗くなり始めている。あたしは膝を抱えてうずくまる。そして自分の想いを整理することにした。今までの結愛先パイとの思い出を一つ一つ振り返っていく。結愛先パイはいつもあたしを優しく包んでくれた。一緒にいて落ち着く存在。そんな結愛先パイが大好きだ。


 あたしは結愛先パイのことが知りたい。もっと深く知っていきたい。結愛先パイの全てを知りたいと願ってしまった。すると突然、後ろから抱きしめられた。振り向くとそこには結愛先パイがいた。


「電話くらいでなさいよ……心配するでしょ?」


「結愛先パイ……あたし……」


 結愛先パイの温もりが伝わってくる。とても安心出来る暖かさだ。あたしはそのまま声を出して泣いてしまった。

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