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66. スピーチ大会

66. スピーチ大会




 今日はスピーチ大会の本番だ。全校生徒が体育館に集まっている。準備できることはやったし、スピーチ原稿も結愛先パイと衣吹ちゃんが見てくれた。あとは発表するだけ。もうそろそろあたしの出番。


 緊張してきた……。心臓バクバクいってる。でも、落ち着け、あたし。深呼吸してたら、隣で衣吹ちゃんが心配そうに声をかけてきた。


「大丈夫?凛花ちゃん?手握ろうか?」


「それは余計に緊張しちゃうよ。」


「あ、ごめんね。でも、無理しないで。凛花ちゃんなら絶対できるから!」


「うん!ありがとう、衣吹ちゃん。」


 そうだよね。あたしには応援してくれる人がいるんだもん。もちろん結愛先パイも。頑張らないと! よし、行こう!! 壇上に上がると、みんな一斉にこっちを向いた。やっぱり大勢の人に注目されるのって苦手かも……でも、ここで逃げてられない。よしっ!行くぞー!!まず最初にあたしはステージ中央に立ち、挨拶した。


 あたしはそんな中でも大好きな人を探してしまう。二年生の列に結愛先パイを見つける。そして目が合うと結愛先パイは優しく微笑みをくれる。それを見てあたしは緊張がどこかにいってしまった。これが愛の力なのかな?とか思いながら一呼吸置いて話し始める。


「こんにちは。一年一組、新堂凛花です。【Pastelを描いて】を読んでくださった皆さんに感謝したいことがあります。実はこの物語を描くきっかけになった出来事があったんです。……と作者はここに立てたなら言っていたと思います。」


 あたしはそのままスピーチ原稿を読み続ける。途中途中結愛先パイを見ていたのは内緒だ。そのおかげか不思議と楽しく発表ができたような気がする。そしてそのままスピーチを終える。


「以上であたしの発表を終わりにします。ありがとうございました。」


 そう言って頭を下げた途端、大きな拍手が起こった。こうしてあたしのスピーチ大会が終わった。結果はというと優勝……にはならず残念な結果で終わってしまった。


 放課後。小説演劇同好会の部室にあたしと結愛先パイはいつも通りいる。あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「あの~、結愛先パ……」


「ねぇ凛花。」


 謝ろうとしたら結愛先パイが先に口を開いた。


「素晴らしいスピーチだったわ。だからそんな顔しないで?」


「でも……これじゃ小説演劇同好会が……。」


「あなたは持てるだけの力でスピーチをした。私にはあなたのスピーチしている姿がとても楽しそうに見えたわ。」


 そう言われると少し心が軽くなった。それにしてもあたしの顔ってわかりやすいのかも……。すると突然、結愛先パイがあたしのことを抱きしめる。いきなりだったのであたしはびっくりしてしまった。でも、すごく心地よい感じがした。


「ありがとう。ここがなくなるのは少し寂しいけど、私にはあなたの気持ちが伝わったわよ?」


 その時部室の扉が開く。そこには天道生徒会長がいた。あたしは慌てて結愛先パイと距離をとる。見られちゃった……大丈夫かな……?


「何をしてるんですか?」


「あら?後輩を慰めていたのだけれど?あなたこそ何の用?」


「小鳥遊さんには用はありません。新堂さんに用があります。」


「え?あたしですか?」


 あたしは思わず声を出してしまった。なんだろう……? 天道生徒会長は真剣な表情になる。そしてこうあたしに言った。


「あのスピーチ原稿はあなたが書いたのですか?」


「え?はい。結愛先パイや友達の水瀬衣吹ちゃんにも手伝ってもらいましたけど……。」


「小鳥遊さんもですか……小鳥遊さんはあの原稿でいいと思ったのですか?」


「ええ。私は凛花らしくていいと思ったわ。素直な気持ちを文字に起こして表現しているし。」


 そう聞いた天道生徒会長は少し考えてあたしに言う。


「正直。新堂さんのスピーチ原稿はスピーチ大会に相応しくありません。あれはただの感想文です。」


 あんなに一生懸命書いたのに……。感想文って……。酷いよ……。天道生徒会長は続けて話す。


「でも。あなたが小説を、この作品を好きなのはすごく伝わりました。壇上でのあなたの姿はとても楽しそうに話していました。まるで作者になったように、時にはその物語の登場人物のように。」


「えっ……?」


「それもこの部活の……先輩の指導のおかげなのでしょう。素晴らしい才能だと思います。小説演劇同好会の活動を認めます。」


「本当に!?あっ……。本当ですか?」


 嬉しい。これで存続できる。やったー!結愛先パイの方を見ると、結愛先パイは笑顔でこっちを見ている。あたしはそれを見て更に嬉しくなる。


「これからも頑張ってください。では失礼します。」


 そう言って天道生徒会長は部室から出ていった。


「良かったですね、結愛先パイ!」


「ふふっ。そうね。」


「あの……結愛先パイ……ご褒美欲しいかなぁ……あたし頑張ったし。」


「ご褒美?ここで?あなた静かにできるの?小説演劇同好会なくなるわよ?下手したら退学もありえるんじゃない?」


 ここで?何をするつもり何ですか結愛先パイは!?なんかドキドキしてきた。あたし変なこと言わなければよかったかも……。


「そういえば。あなたスピーチの最中、私の事チラチラ見てたでしょ?そんなに好き?」


「いけませんか見ちゃ?結愛先パイ綺麗だし、可愛いし、カッコよくもあり、美しくもあるし、色々と凄いし、イヤらしいし、あと、あと……。」


「もうわかったから!恥ずかしいわよ……。」


 結愛先パイは顔を赤くしてあたしの口を手で塞ぐ。それからあたしたちはいつも通りに過ごすことにした。そして部室に夕日が差し込み、あたしたちの影を長く伸ばしていた。


 こうして、小説演劇同好会は無事、存続が決まったのでした。

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