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63. Story.5 ~【Pastelを描いて】~②

63. Story.5 ~【Pastelを描いて】~②




 あたしと結愛先パイは小説演劇同好会の存続をかけて、来週のスピーチ大会に出ることになった。と言っても出るのはあたしだけどさ……。スピーチなんかしたことないし、人前に立つのも緊張してできなそうなんだけど……。


「はぁ……嫌だなぁ」


 ため息が出るけど、そうも言ってられない。とりあえずネットで調べてみるとするか。あたしはスマホで検索をする。ふむ……。なるほどね。まずは原稿を用意するのか。まぁそれは何とかなりそう。でも問題は……話す内容か。


 とりあえず本屋で結愛先パイが買ってくれた、【Pastelを描いて】をまずは読んでみる。結愛先パイは『買ってあげるから頑張って』とか言ってたけどさ……。あたしはその小説のあらすじを確認する。


【Pastelを描いて:あらすじ】

 主人公の一色七佳(いっしきななか)は、高校一年生。友達もおらず、勉強や運動が苦手で、何をやってもうまくいかない彼女はある日、突然現れた謎の少女・橘彩香(たちばなさいか)と出会う。彩香は七佳に「あなたは恋愛の本当の意味知ってる?」と言われ、意味がわからずに戸惑うのだが……。


 その日から毎日のように、彩香と名乗る少女が現れては七佳を励ましていく。そんな日々が続くうちに、七佳は次第に彩香に惹かれていく。しかし、そんなある日、七佳の前に突然現れる彩香に似た美少女。その少女の名前は彩香の妹・橘千晶(たちばなちあき)というらしい。そして彩香は3年前に泣くなっていると言う事実を聞かされて……!?


 え?何これ?めっちゃ面白いじゃん!この小説を読んだ瞬間、あたしは衝撃を受けた。今まで読んだことのないような話だったからだ。こんなにも胸が高鳴ったこと久しぶりだ。


 しかも彩香と千晶の姉妹がとても魅力的だ。2人とも可愛いし、特に姉の彩香は、大人っぽい雰囲気もありつつ子供のようなあどけなさもある不思議な女の子だ。そして妹の千晶はとても素直でいい子そうだ。


 これはもう読むしかないよね!よしっ!あたしはこの小説のスピーチ原稿を書くことにするぞー!!



 ◇◇◇



 翌日。あたしは部室でスピーチ原稿を書いている。書いたことないから全然進まないんだけどさ……。


「凛花ちゃんの言葉で書けばいいと思うよ。あと発表するから流れも大切にね。」


「うん。ありがとう衣吹ちゃん」


「なんであなたがここにいるのよ?水瀬さん?」


「小鳥遊先輩が凛花ちゃんをいじめてるみたいだから助けに来てあげたんですよ。今日は私は部活お休みなので。」


 そう。衣吹ちゃんが手伝ってくれている。本当に優しいよね衣吹ちゃんは。


「そんなこと言ってまた凛花にちょっかい出そうとしてるんじゃないの?」


「そんなことしませんよ。でもハグくらいしてほしいかも凛花ちゃん。いいよね?」


「ダメよ!いい加減にしなさいよ水瀬衣吹!」


「ハグくらい海外でも普通にしてますよ。過剰反応ですよ小鳥遊先輩」


「あの……原稿を……」


 結愛先パイと衣吹ちゃんは『水と油』いや『竜と虎』?仲が良いんだか悪いんだかわからない。あたしはとりあえず原稿を書き始めることにした。それから数時間後。やっと原稿が完成した。


「できた。見てください結愛先パイ。どうですかね?」


「どれどれ?」


 結愛先パイはあたしのスピーチ原稿を読み始めるが少しして読むのをやめる。


「ダメね。書き直しなさい。」


「えぇ……」


 せっかく書き上げたのに……。ひどい。何がいけないのかくらい教えてほしいんだけど……。


「何よその顔は?凛花。あなたはその小説を読んでどう思ったの?」


「えっと、凄く感動しました。少し変わった恋愛小説だなぁって。」


「作者はその小説の本題はどこにしてると思う?それが分からないのなら、書き直しても同じよ。」


 作者の意図……か。確かに気になるところかもしれない。この本の肝となる部分はどこなのか。あたしはもう一度読み返す。すると、何か引っかかるところがあることに気づいた。そうか……。そういうことだったんだ。


 結愛先パイに言われた通り、書き直しを始める。今度はスラスラと書くことができた。出来上がった原稿を見て、結愛先パイは満足げな表情をする。


「いいんじゃない?凛花らしくてあたしは好きよ。」


「私も読んだけど、最初のものより凄くよくまとまってるよ。凛花ちゃん才能あるんじゃない?」


「そっか。良かった。」


 2人に褒められて嬉しくなって思わず笑顔になってしまう。でもこれで安心だ。スピーチ大会まではまだまだ時間はある。これから練習をして、本番までには完璧に仕上げないと。頑張らなきゃ。


 そして帰り道。衣吹ちゃんにお礼を言ってあたしは結愛先パイと一緒に帰っている。そういえば結愛先パイはなんであたしにスピーチをやらせようとしたのかな?


「ねぇ、結愛先パイ。どうしてあたしにスピーチをやらせたんですか?」


「それは凛花が自分で考えなきゃ意味がないわ。ま、でも強いて言うならば、あなたはもっと自分の意見を言うべきだと思うの。凛花はいつも人のことばっかり気にするから、たまには自分で考えたことを話してもバチは当たらないんじゃないかしら?」


 あたしは自分のことを考えることが少ない。昔から周りに合わせてばかりだったから……。そんなあたしを心配してくれていたのだろうか。確かに今のままじゃだめだよね。スピーチ大会で自分なりの考えをしっかり伝えられるようにしないと。あたしは決意を固めて、家に帰るのであった。

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