62. Story.5 ~【Pastelを描いて】~①
今日から2学期が始まる。夏休みには色々あった。でも結愛先パイと本当の意味で恋人同士になれたのは何より嬉しかった。たまに見せるデレ加減がまたたまらない。そしてあたしはついに初めてを結愛先パイに……恥ずかしい……。あたしがニヤついていると隣の席の衣吹ちゃんが話しかけてくる。
「おはよう凛花ちゃん」
「あっおはよう衣吹ちゃん。2学期もよろしくね。」
「うん。ニヤニヤして小鳥遊先輩といいことでもあったの?」
そう言って衣吹ちゃんは悪戯な笑みを浮かべる。衣吹ちゃんは勘が良いのか鋭いところがある。だからと言って隠し事する理由はないんだけど……一応衣吹ちゃんは知ってるし。でもやっぱり恥ずかしい気持ちはあるわけで……。まぁいずれバレることだし、別にいいか! それに隠す必要もないよね。だってもう恋人同士なんだもん。堂々としていた方がいいと思うんだ。
だからあたしは衣吹ちゃんに正直に話すことにした。話を聞き終わった衣吹ちゃんは、驚いた表情をしつつも納得したような顔をしていた。そして衣吹ちゃんはこう言った。
「おめでとう凛花ちゃん。良かったね!」
「ありがとう衣吹ちゃん!」
「小鳥遊先輩と仲良くね。でも朝から話すには内容が過激すぎだけどね……?」
「やっぱり?そうだよね……ごめん衣吹ちゃん……。」
あたしは申し訳なさそうな顔をしながら謝った。すると衣吹ちゃんはクスッと笑って言う。でもあたしを応援してくれているようだった。
そして放課後。あたしはそのまま小説演劇同好会の部室に向かう。正直ここも1ヶ月ぶりだなぁ。夏休みの間はいつも結愛先パイの家に行ってたし。
あたしが扉を開けると、そこには結愛先パイではなく、1人の女子生徒がいた。
「あなた、そのリボン一年生?ここの部員ですか?」
「あっはい。新堂凛花です。」
その女子生徒は腕に『生徒会』と腕章をつけている。なんで生徒会の人が?というよりこの人って……。その時結愛先パイがやってくる。そしてその女子生徒をみるなりすごい剣幕で睨む。
そして女子生徒が口を開く。
「小鳥遊さん。待っていました。あなた話があるって言っても、すぐに無視するので。」
「私は話すことないわ。天道真白。」
「そうはいきません。あなたは私たちの忠告を何度も無視している。今日は引きません。」
天道先輩かぁ……なんか結愛先パイは嫌ってるみたい。それに忠告って?それを聞いた結愛先パイは壁を思い切り叩いて言う放つ。
「しつこいわね!あの話なら私は嫌と言っているでしょ!?用が済んだなら、もう出てってくれないかしら?」
おいおい。穏やかじゃないよ結愛先パイ……。凄い空気が部室に流れてるんだけどさ……。
「何度も言いますが今日は引きません。私は春に言いました。この小説演劇同好会は功績をあげない限り部活動として認めていないと。それを無視してあなたはまだ活動を続けている。もう見過ごせませんよ生徒会長として。」
天道先輩って生徒会長!?あーなんか雲行き怪しくなってきたかも……。あたし絶対邪魔だよね……。
バンッ!!という音が聞こえ振り返ると結愛先パイがまた壁を思い切り叩いていた。やばいよこれ……。絶対修羅場になる予感しかしないんですけど……。
「あら?なら活動を認めてもらえばいいんでしょ?」
「どうやって認めさせるつもりなんですか?」
「文化祭の前に恒例の行事があるじゃない。『スピーチ大会』が」
スピーチ大会……えぇ。まさかとは思うけど……。結愛先パイはあたしの方を見て言う。ちょっと待って!まさかあたしが何かする流れになってる!?いや無理だよそんなの!大勢の前で話すの無理!
「あなたも参加するのですか?」
「ええ。凛花がね。もし凛花のスピーチが素晴らしいものなら部活動として認めなさい?それでいいわよね?生徒会長さん?」
なんかあたしがやる流れになってる!?あたしは結愛先パイの腕を掴み半泣きで首を横に振る。すると結愛先パイはいつもの悪い笑顔の圧をかけてくる……。自分の彼女にひどいよ結愛先パイ!
「分かりました。題材は【Pastelを描いて】です。来週のスピーチ大会を楽しみにしてます。」
そう言うと天道先輩は部室を出ていった。そしてあたしは結愛先パイを睨み付ける。
「なんであたしなんですか!結愛先パイがやればいいのに!」
「凛花……。私はこの部活を守りたいの。あなたと出会えたこの部活を。でも私は人前に立つのが苦手なの。分かるわよね?」
「そりゃ分かりますけど!あたしだって……」
そう言いかけるとあたしの言葉は遮られた。結愛先パイに抱きしめられながら頭を撫でられる。そして耳元で囁く。
「お願い凛花。私のために……やってくれないかな?」
ずるい……。こんな事言われたら断れないじゃん。こうしてあたしは【Pastelを描いて】のスピーチをすることになったのだった。