60. 夏の終わり
そんなこんなで結愛先パイと衣吹ちゃんとやり取りをしているうちに、いつのまにか花火大会が始まったようだ。ドーンっと大きな音が聞こえてくる。周りを見渡すと、みんな空を見ていた。あたしも見上げてみたけど……真っ暗でよく見えないや……。しばらく見ていると、ドンッ!っと大輪の花が咲いた。そして次々と花火は打ち上がっていく。
すごい……綺麗……。こんなに近くで見たことないよ。思わず感動してしまうほどだ。すると衣吹ちゃんが手を離す。
「さて。私は麻宮さんと日下部さんのところに行くね?二人には上手く言っておくから、2人のデート楽しんでね。あとはごゆっくり。」
衣吹ちゃんは可愛くウインクをする。あたしは小さく手を振る。そして衣吹ちゃんの姿が見えなくなった頃、結愛先パイが口を開いた。
「本当に気に入らない子ね。水瀬衣吹。」
「結愛先パイ。少し楽しそうですけど?」
「気のせいでしょ。」
そういう結愛先パイは少し微笑んでいる。何だかんだ衣吹ちゃんとも上手くやっているみたい。まぁ結愛先パイと衣吹ちゃんは似た者同士だと思うし。意外に相性良かったりして……。
「花火キレイね……。」
「そうですね……。もう夏の終わりなんですね……。」
それからしばらくの間、花火を見ながら会話を楽しんだ。今年の夏も終わりか……。
来年の夏も一緒にいれたらいいな……。
そんなことを思いながら花火を眺めていた。花火大会も終わって、あたしたちは家に向かって歩いていた。花火もキレイだったな……またみんなで来たいな。いつまで結愛先パイと一緒にいれるのかな……。
なんか……急に寂しくなる。あたしは結愛先パイの腕にしがみついてみる。結愛先パイは一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐに優しい笑顔になる。
「どうしたの?凛花。甘えん坊ね。」
「ダメですか?こういうのもいいじゃないですか。」
「まぁそうね。私もこの方がいいわよ?でも、あんまり可愛いと襲っちゃうかもしれないけど?」
「えっ……外はダメですよ?」
「冗談よ。そろそろ帰りましょう。」
それからはお互いに無言で歩いた。やっぱり結愛先パイは何も言わずにずっと手を握ってくれてる。嬉しいはずなのに、なぜか胸の奥がチクリと痛む。
結愛先パイと別れる交差点に着いた。ここから先は一人で帰らないといけない。結愛先パイと離れたくないな……。
あたしは無言で腕を絡めたまま結愛先パイを見上げる。すると結愛先パイもこちらを向いた。
「ねぇ凛花。今日はありがとう。すごく嬉しかったわ。」
「いえ。あたしも楽しかったです。」
「それじゃあね。」
「はい。お疲れ様でした……」
あたしは手を振ってから歩き出す。結愛先パイと会えなくなるわけでもないし、いつも通りでいれば大丈夫だよね……。そう自分に言い聞かせてみるけど、全然気持ちが切り替わらない。
まだ一緒にいたかったな……。
そんなことを考えて帰り道を歩いていく。夏祭りの余韻があたしの心を締め付けていく。泣きそう……あたしは歩くのをやめて下を俯く。涙が溢れて止まらない。あたしはそのまましばらく立ち尽くしていた。
しばらくして、ようやく落ち着いてきたので顔を上げる。その時、誰かに肩に手を乗せられた。誰だろうと思って振り返るとそこには、息を切らせた結愛先パイがいた。
どうして?と言いたかったけど声が出なかった。
「まったく……なんで泣いてるのよ?そんな顔されたら帰りづらいんだけど?」
「ごめんなさい……あたし……まだ結愛先パイと一緒にいたい」
「仕方ないわね。ほら行くわよ」
あたしの手を握ると結愛先パイは歩き出す。結愛先パイの手は心地よくて、温かくて、あたしの心に空いた穴を埋めてくれるようだった。