57. Anotherstory.4 ~【雪月花と線香花火。そして花芽吹く時】凛花視点~
あたしは今修羅場をむかえている。結愛先パイと衣吹ちゃんが二人で話しをしている最中だ。あたしが好きなのは結愛先パイだ。これは間違いない。でも衣吹ちゃんのことは拒めない自分もいる……。あたしは本当に結愛先パイの事が好きなのかな……。
それより結愛先パイは本当にあたしの事好きなのかな……そんな不安しか出てこない。自分が嫌になる。
結愛先パイも衣吹ちゃんも悪くない。あたしが弱いから悪いんだ。
あたしはただ近くの公園のベンチでぼーっとしている。どれくらい時間がたっただろうか買った飲み物には汗が滴り落ちている。その雫に映る自分の顔はとても悲しそうだった。
スマホの画面は暗いまま。何があっても受け入れる覚悟は正直あたしにはない。だけどもう逃げることもできない。そんなあたしが震える手でスマホを握りしめていると遠くから見覚えのある姿が見える。そう結愛先パイだ。
「凛花!」
「結愛先パイ……」
「ここにいたのね?探したわよ……。」
「えっ?スマホで連絡くれれば良かったのに。」
結愛先パイはゆっくりとあたしの隣に座る。結愛先パイは何も言わない……。衣吹ちゃんと何を話したかも分からないけど……。ここはもう謝るしかない!
「凛花。あのね私……」
「ごめんなさい!結愛先パイ!」
「えっ?」
「あたし……その、衣吹ちゃんとエッチしそうになって……ラブホテルにも行っちゃったし……。またキスしちゃったし……でも本当に衣吹ちゃんには何もしてないの!ただ……お互い自分でシたけど……。お仕置きならいくらでもされるので許してください!結愛先パイ!」
あたしは頭を下げながら謝る。きっと許してくれないよね……。結愛先パイに嫌われたかもしれない。涙が出そうになる。でも悪いのはあたしだ。すると結愛先パイがゆっくり話し始める。
「こほん。そうね、それは一先ず置いておくわ。私の話を聞いてくれない?とても大事な話なの。」
「はい……。」
絶対……怒ってる。いつもの感じじゃないもん。あたし……嫌われたよ。
「凛花驚かないで聞いて?私ね……この前の【雪月花】の作者なの。」
「ええ!?結愛先パイが!?あっ……。」
あの春菜ちゃんの密着取材の時に読んだあの小説【雪月花】の作者が結愛先パイ?あたしはあまりの驚きに声が出る。そして一応確認をする。
「それじゃ……あの【雪月花】の主人公は結愛先パイなんですか?」
「……ええ。そうね。あれは私が中学生の時の話なのよ。」
それじゃ……最後に好きな人に告白出来なかったのは結愛先パイ……?本当の気持ちを隠して……きっと苦しかった、辛かったよね。あたしはその時の結愛先パイを思うと涙が溢れてきてしまう。
「結愛先パイ可哀想……。自分の気持ちを抑えてその子に告白しなかったんですよね……」
「凛花……」
「でも……その子も分かってると思います。結愛先パイの気持ち。だって今の私にはその子の気持ち分かるから。」
私は分かる。だって結愛先パイの事が好きだから、その事実を知ってあたしは理解した。結愛先パイはあたしのために……。そんなことを思ってふと結愛先パイを見ると結愛先パイは涙を流していた。えっ……あたしなんか言っちゃったかな……?
「ゆっ結愛先パイ!?どどどうして泣いているんですか!?」
「ごめんね……ちょっと嬉しくて……。ありがとう凛花。」
そう言ってあたしを抱き締める結愛先パイ。ああ……いつもの結愛先パイの匂い、温もりだぁ。幸せを感じる。あたしはやっぱり結愛先パイが好きだ。そのまま結愛先パイはあたしに話す。
「私は逃げていたの。女の子同士の恋愛が周りに知れたらあなたを傷つけてしまう。だから外では会わないようにしていた。言われたわ水瀬衣吹に、あなたは逃げているだけ、凛花は私のことを信じきれてないって。だからごめんなさい。」
「謝らないでください。あたしが弱いから、押しに弱いからいけないんです。」
「まぁ……それもあるわね。水瀬衣吹とラブホテルに行った?しかもお互いオナニーした?本当にあり得ないわよ。」
「ごめんなさい……。」
やっぱり怒ってるよね……。はぁ。そんなあたしの様子を見て、結愛先パイは真剣な表情をしてあたしに言う。
「好きよ。あなたの事が好き。大好き。ずっと一緒にいたいの。例え周りにどんな目で見られても、私はあなたと一緒にいたいの。不安にさせてごめんなさい。これが私の言葉よ。」
「結愛先パイ……」
「凛花。私と付き合ってほしいわ。私の初めての彼女になって」
「……はい!」
そう言った結愛先パイは今までにない精一杯の笑顔をあたしにくれる。凄く嬉しい……本当に。言葉にならない。自分の感情が分からなくなる。だからあたしは笑顔で何度も頷く。
「凛花。あなたには迷惑がかかるかもしれないわね。」
「それはお互い様ですよ結愛先パイ。大丈夫。何かあったら開き直りましょう!自分の気持ちには嘘つきたくないし。」
「ふふっ。そうね。それなら私たちなら大丈夫ね。改めてよろしくお願いするわ。凛花。」
「はい!こちらこそ!」
その時、結愛先パイが驚くことを言ってくれる。
「凛花……私、夏祭り行こうかしら。」
「えっ来てくれるんですか!?」
「ええ。もう我慢するのはやめる。」
今まで、あたしのために外では会わないようにしてくれていた結愛先パイ。あたしと一緒に歩んでくれることが凄く嬉しい。結愛先パイはあたしの手を握り歩き出す。
「衣吹ちゃんにお礼言わないとですね?」
「そうね……。それより何がいいかしらね?凛花のお仕置き?」
「えっ?あるんですか……?」
「あたり前じゃない。あなた浮気したんだから?いっぱいいっぱい可愛がってあげるから楽しみにしてなさい?」
お仕置きはあるんだ……。でもこれでいい。だって結愛先パイはあたしの事を好きでいてくれてる。それだけであたしは満足だよ。それに結愛先パイはあたしが思っていた以上にあたしの事を考えていてくれた。それを知っただけでも幸せなんだよ?
結愛先パイと付き合って良かったなぁ。これからも結愛先パイと一緒の時間を過ごしたい。そう思いながらあたしたちは歩きだすのでした。