56. Anotherstory.4 ~【雪月花と線香花火。そして花芽吹く時】結愛視点~
水瀬衣吹に私は言われた。ただ『逃げてるだけ』だと。そう。その通り。私は自分の都合のいいように凛花と付き合っていた。この前、初デートで水族館には行ったけど、正直凄く楽しかったわけじゃない。やはり頭の中には女の子同士の恋愛、その周りの目の偏見が気になっていた。そしてその恐怖も。
周りから見れば私と凛花は仲のいい友達に見えると思う。でも……私は周りの目が怖い。あの時のような想いをするのはもうたくさん。
だから私は逃げていた。
本当は臆病でずるくて最低な人間。
水瀬衣吹は強い人だと思う。恐怖を恐れずに一歩前に踏み出すことのできるそんな彼女に私は嫉妬して憧れているのかもしれない。
「凛花……どこまで行ったのかしら?スマホ置いて来ちゃったし……。」
そんな独り言を言いながら私は街を歩いて凛花を探す。凛花ならどこにいるか……。私は凛花の事を何も知らない。だけど何故か凛花の居場所はわかる気がした。根拠は無いけどきっと……。
しばらく歩き公園に着くと、ベンチに座ってる人影を見つけた。その人は私の大好きな凛花だった。
「凛花!」
「結愛先パイ……」
「ここにいたのね?探したわよ……。」
「えっ?スマホで連絡くれれば良かったのに。」
私はゆっくりとベンチの隣に座ると、凛花に話すことにする。それで私を許してくれなくても構わない。嫌われたとしても……。
「凛花。あのね私……」
「ごめんなさい!結愛先パイ!」
「えっ?」
「あたし……その、衣吹ちゃんとエッチしそうになって……ラブホテルにも行っちゃったし……。またキスしちゃったし……でも本当に衣吹ちゃんには何もしてないの!ただ……お互い自分でシたけど……。お仕置きならいくらでもされるので許してください!結愛先パイ!」
そう言って私に頭を下げる凛花。ふーん。なんか色々暴露されたけど、とりあえずそれは置いておくことにする。
「こほん。そうね、それは一先ず置いておくわ。私の話を聞いてくれない?とても大事な話なの。」
「はい……。」
凛花は何か勘違いしてそうな顔をしてるけど、とりあえず説明させてもらおうかしらね。
「凛花驚かないで聞いて?私ね……この前の【雪月花】の作者なの。」
「ええ!?結愛先パイが!?あっ……。」
驚くのも無理はないわよね。今まで隠してきたんだもの。それにしても驚いた顔の凛花可愛いわね……。写真撮りたいくらいだわ。って今はそれどころじゃなかったわ。
さて、どう反応するかしら?軽蔑する?気持ち悪いと思う?それとも……怖くて怯えているのかしら? 私がそう考えていると、凛花は私を見て話してくる。
「それじゃ……あの【雪月花】の主人公は結愛先パイなんですか?」
「……ええ。そうね。あれは私が中学生の時の話なのよ。」
私のその発言を聞くと凛花は突然涙を浮かべた。そして私に言う。
「結愛先パイ可哀想……。自分の気持ちを抑えてその子に告白しなかったんですよね……」
「凛花……」
「でも……その子も分かってると思います。結愛先パイの気持ち。だって今の私にはその子の気持ち分かるから。」
凛花はそう私に言ってくれる。私は……逃げなくてもいいの?ちゃんと凛花と恋愛してもいいの?そう思うと不思議と自然に涙が溢れてしまう。
「ゆっ結愛先パイ!?どどどうして泣いているんですか!?」
「ごめんね……ちょっと嬉しくて……。ありがとう凛花。」
私は泣きながら凛花を抱き締める。すると凛花も抱き返してくれる。ああ……温かいわ。心まで温かくなって行くみたい……。暫く凛花を抱きしめた後、私は凛花に話しかける。まずは謝らないとね……。それから伝えようかしら。私の本当の想いを。私はゆっくり深呼吸をして凛花に話し出す。
「私は逃げていたの。女の子同士の恋愛が周りに知れたらあなたを傷つけてしまう。だから外では会わないようにしていた。言われたわ水瀬衣吹に、あなたは逃げているだけ、凛花を信じきれてないって。だからごめんなさい。」
「謝らないでください。あたしが弱いから、押しに弱いからいけないんです。」
「まぁ……それもあるわね。水瀬衣吹とラブホテルに行った?しかもお互いオナニーした?本当にあり得ないわよ。」
「ごめんなさい……。」
私は意地悪く凛花に言う。しょげている凛花も可愛いわ。でもこれで私の気持ちを伝える事が出来るわね。私は凛花の手を握り、真っ直ぐ凛花の目を見る。私は凛花に伝えようと決心したの。もう【雪月花】のようにはなりたくない。だから私は真剣に凛花に伝える。
「好きよ。あなたの事が好き。大好き。ずっと一緒にいたいの。例え周りにどんな目で見られても、私はあなたと一緒にいたいの。不安にさせてごめんなさい。これが私の言葉よ。」
「結愛先パイ……」
「凛花。私と付き合ってほしいわ。私の初めての彼女になって」
「……はい!」
私は凛花に精一杯の笑顔を見せる。すると凛花は笑顔で何度も頷いてくれる。
「凛花。あなたには迷惑がかかるかもしれないわね。」
「それはお互い様ですよ結愛先パイ。大丈夫。何かあったら開き直りましょう!自分の気持ちには嘘つきたくないし。」
「ふふっ。そうね。それなら私たちなら大丈夫ね。改めてよろしくお願いするわ。凛花。」
「はい!こちらこそ!」
凛花は笑顔で答えてくれる。その笑顔を見て、私は自分が恥ずかしくなる。私は覚悟は決まっている。これからは凛花との時間をもっと……。
「凛花……私、夏祭り行こうかしら。」
「えっ来てくれるんですか!?」
「ええ。もう我慢するのはやめる。」
私はそう言い、凛花の手を握ると、家に向かって歩き出す。
「衣吹ちゃんにお礼言わないとですね?」
「そうね……。それより何がいいかしらね?凛花のお仕置き?」
「えっ?あるんですか……?」
「あたり前じゃない。あなた浮気したんだから?いっぱいいっぱい可愛がってあげるから楽しみにしてなさい?」
私がそう言うと、凛花の顔は真っ赤になる。本当に可愛いわ凛花は。私たちは笑い合う。凛花とは今日で恋人同士になった。これから色々な事があると思う。それでもきっと乗り越えられるはず。
私の心を凍らせていた雪は、花火のような熱い光によって今解け始め、綺麗な色鮮やかな花に向かって流れていった……