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54. 修羅場

54. 修羅場




 まだ微睡みの中、あたしが最低な人間だと自分で思っていると衣吹ちゃんが目を覚ます。


「おはよう。凛花ちゃん」


「あっおはよう……衣吹ちゃん……」


「そうだ、服乾いたかな?」


 衣吹ちゃんは洋服に手を当てて乾いたかを確認している。その仕草を見ていたら何だか可愛いなと思った。今日は特に可愛く見える。さっきまで感じていた不安や緊張は無くなっていた。


「乾いたみたい。着替えて帰ろうか。」


「うん……」


 衣吹ちゃんの言葉を聞いて立ち上がった。そしてあたしたちは部屋を出た。外に出ると外はもう日は昇っていた。


「結局お泊まりしちゃったね。ごめんね凛花ちゃん。私が入ろうって言ったから。」


「ううん。大丈夫。」


 そんな会話をしながらあたし達は歩き始めた。さっきのホテルでの事が頭に浮かぶ。あたしはやっぱり気になるので聞いてみる。


「衣吹ちゃん……本当はエッチしたかったんだよね?」


「したいよ。でも……本当にあれ以上しちゃったら……もう自分でも止められないし、凛花ちゃんが傷つくんじゃないかと思って出来なかった。」


「衣吹ちゃん……」


「……ねぇ凛花ちゃん。私はやっぱりダメなのかも。そう簡単には諦められないみたい。」


 衣吹ちゃんの声はとても悲しげだった。どうしたらいいのか分からず黙っていると衣吹ちゃんは話し始めた。


「凛花ちゃんお願いがあるの。明日小鳥遊先輩とお話がしたいの。お願いしてもらえないかな?」


「結愛先パイと!?」


「うん。その前に私のこと話しておいて凛花ちゃん、そうしないと話せないからさ。」


 それは……修羅場になっちゃう!?それにしても衣吹ちゃんは何を話すつもりなんだろうか。気になるけど聞ける雰囲気じゃないし……。


 そして衣吹ちゃんと別れてあたしは家に帰る。家に着いてお風呂に入ったりご飯を食べたりしている間ずっと考えていた。


 明日には結愛先パイに会う事になるんだよね。一体何を言われるんだろうか……。想像出来ないけど怖い。


 そしてあっという間に夜になって寝ようとした時、携帯が鳴った。画面を見ると結愛先パイからだ。出るべきか出ないべきか迷ったが結局出ることにした。電話に出るといつもより低めの声で話し掛けられる。


 《凛花。今大丈夫かしら?》


「はい。どうしましたか?明日の事ですよね?衣吹ちゃんに会うのやめます?」


 《いえ。水瀬衣吹とは会って話すわ。ただ……凛花の声が聞きたくなったの。》


「えっ?」


 予想外の言葉にびっくりする。まさかこんな事を言われるなんて思ってなかった。だって今まで一度も言われた事がない。


「どうしてですか?」


 《私には凛花だけだもの。だから声だけでも聞かせて?》


 そんな風に言われて胸がきゅっと締め付けられる。


「結愛先パイ……。あたしも会いたいです。」


 《ありがとう。つまらない事で電話してごめんなさい。また明日ね。おやすみなさい。》


「はい。おやすみなさい。結愛先パイ。」


 そしてあたしは電話を切った。そしてベッドに横になりながら呟く。


「あたしは結愛先パイが好き……。声を聞いて会いたくて仕方がなかった。なのに……。」


 あの時の衣吹ちゃんの顔が浮かんでしまう。あたしは最低だ。自分の気持ちがまた分からなくなっちゃった……。そしてそのまま眠りについた。



 ◇◇◇



 そして翌日。あたしは衣吹ちゃんと共に結愛先パイの家に行くことにする。衣吹ちゃんが結愛先パイに何を話すか分からないけど……。何かが起こるような気がするし。結愛先パイの家に着きインターホンを押す。中から結愛先パイが出てきた。


 結愛先パイの顔は何故か少し険しい。そしてあたし達を家の中に案内してくれた。そしてリビングに入るなり結愛先パイはあたしに話しかけてきた。


「凛花。あなたは飲み物でも買ってきたら?ここにいて大丈夫?」


「えっと……」


「そうだね。凛花ちゃん。外出ててくれる?」


 そう言ってあたしは結愛先パイの家から追い出される。……頭がおかしくなりそう。もしかしたらこれが浮気した人の心理なのかもしれない……。


 あたしは近くのコンビニに行き適当にジュースを買って帰ることにした。そして帰り道でふと思った。


「あたしはどうすればいいんだろう……」


 1人呟くが誰も答えてはくれない。ただ時が過ぎるのを待つしかなかった。

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