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53. 最低な人間

53. 最低な人間




 心臓の音が大きく聞こえる。あたしは今ラブホテルに衣吹ちゃんと一緒にいる。あたしには結愛先パイがいるのに……でも衣吹ちゃんにもドキドキしちゃう……強く断れないあたしがいる。


「してみるって……?」


「エッチ」


「えっ!?」


 そう言って衣吹ちゃんは顔を近づけてくる。もう唇がくっつきそうな距離だ。逃げたいけど体が動かない。心臓も破裂しそうだ。その時、結愛先パイの顔が浮かんだ。


(あぁ……やっぱりダメ!)


 あたしは思わず目をつぶった。すると次の瞬間、衣吹ちゃんの手が止まった。そしてゆっくり離れていく。


 ホッとしたと同時に少し寂しい気持ちになった。もう少しでキス出来たかもしれないのに……もしかしてあたし……本当は衣吹ちゃんとエッチしたかったのかな……。


 すると突然、衣吹ちゃんがあたしを押し倒してくる。その勢いで倒れ込んだ先はベッドだった。そして衣吹ちゃんが覆い被さってくる。


「衣吹ちゃん!?」


「やっぱり無理だよ……しばらくこうさせて凛花ちゃん。お願い……」


 衣吹ちゃんの目から涙が流れてきた。それを見たらなんだか申し訳ない気持ちになってくる。こんな風に泣かれたら断れるわけがないよ。だからせめて優しく抱きしめた。そして頭を撫でる。


 ごめんね……結愛先パイ……


「凛花ちゃん……ありがとう……」


「いいんだよ。大丈夫?落ち着いた?」


「うん……ありがと……」


 あたしと衣吹ちゃんの心臓の音が重なる。まるで一つになったみたいだ。すごく心地よくてこのままずっとくっついていたいと思った。すると衣吹ちゃんがあたしを強く抱きしめてくる。


「凛花ちゃん。ごめん。また我慢できなくなっちゃった……」


 すると衣吹ちゃんは小さく喘ぎ始める。それが可愛くて何度も繰り返すうちにどんどん興奮してきた。


 気がつくとあたしも同じように自分でしていた。指先が触れるたびにゾクッとする感覚と頭の中に白いモヤがかかるような不思議な感じがする。もっと激しくなると声を抑えることが出来なくなった。


 もう止まらない……!あたしたちは夢中になっていた。お互いに触れている訳じゃない。自分で自分を慰めてるだけなのに……なんだろうこの快感は。


「凛花ちゃん……」


「衣吹ちゃん……」


 しばらくしてついにその時が来た。頭が真っ白になり何も考えられなくなる。やがてゆっくりと意識が戻ってきた。


 ぼんやりした意識の中でふと思う。これで終わりだとしたらなんだか物足りない気がする。まだ続けたいという欲望がある。それはきっと衣吹ちゃんも同じはずだよね。だって2人ともあんなに気持ち良さそうにしてたんだし……。


 衣吹ちゃんはまだ息遣いが荒いままだ。あたしもそれは同じだった。そんな状態でお互いに見つめ合う。あたしが衣吹ちゃんに手を伸ばすと衣吹ちゃんがあたしに言った。


「これ以上はダメだよ。凛花ちゃん。ちゃんと断らないと?小鳥遊先輩可哀想だよ?」


「衣吹ちゃん……。」


「私は弱いから……凛花ちゃんが私を受け入れてくれたのを良いことに利用しようとした。本当に最低だと思う。だけどこれが最後だから……。」


 そう言って衣吹ちゃんは再びあたしに抱きつくとキスをしてきた。軽く触れるだけ、それでも衣吹ちゃんのあたしへの気持ちが痛いくらい伝わる。


 そんなことを考えながらボーっとしていると急に眠気が襲ってきた。どうやら疲れてしまったらしい。それに安心して緊張の糸がきれたせいもあるかも。だんだん瞼が落ちてきて目の前が見えなくなっていく。


(あぁ……ダメだ……)


 そこであたしの記憶は途切れた。






 目が覚めると見慣れない天井があった。ここはどこだろうと周りを見渡すとラブホテルだということを思い出す。隣を見るとそこには裸のまま眠る衣吹ちゃんの姿があった。


 昨日のことを思い出し顔が熱くなる。恥ずかしさと罪悪感が入り交じって複雑な気分になった。それと同時にこれからのことを考えて不安になる。


 結愛先パイへの裏切り行為。バレたら絶対に嫌われちゃうよ……。でも衣吹ちゃんに迫られたら断りきれない。


 結局、あたしは自分のことしか考えていない最低な人間なのかな。そう思うと悲しくなってきた。


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