52. 夏の夕立
8月も残り一週間。それは、夏休み終了までもあとわずかだということ。そしてこの夏を彩る一大イベントの到来までもうすぐということでもある。
そう、夏祭り!あたしは今日は衣吹ちゃんと一緒に浴衣を見に、ショッピングモールに出かけている。あの海の旅行から衣吹ちゃんとは、仲が深まったような気がする。
「浴衣かぁ……私はあまり似合わないよね……」
「そんなことないと思うけど?」
「私さ。その……身長そんなに高くないし、胸大きいでしょ?浴衣はスレンダー体型の方が似合うし。」
「衣吹ちゃんがそう言ったら、あたしの立場は?」
確かに衣吹ちゃんはあたしより背が低い上に、胸が大きい。でも、それが悪いわけではない。むしろ、あたしとしては羨ましいくらいだ。
結愛先パイとかは浴衣似合いそうだなぁ。そうこうしているうちに、お目当てのお店に着いた。浴衣コーナーに着くと、色んな柄やデザインの浴衣があった。
「わあ、綺麗……うん、どれも可愛いね!」
「凛花ちゃん。せっかくだし、お互いの選ばない?」
「うん。衣吹ちゃんの浴衣か……あたしで大丈夫?」
「うん。凛花ちゃんに選んでほしいの。好きな人が選んだ浴衣が着たいから」
そう言った衣吹ちゃんはとても可愛い笑顔をしている。好きな人か……なんか複雑だけどね。あたしはいくつかある中から一着選んだ。紺色の生地に白の花が描かれているシンプルなデザインだった。帯の色も落ち着いた赤で、大人っぽい感じがするし。
「これなんかどう?」
「少し大人っぽくない?あっ……分かった。凛花ちゃん、小鳥遊先輩のやつ選んだでしょ?ひどい……」
「違うよ!本当に衣吹ちゃんが来たら似合いそうだなって……」
「ふふっ。冗談だよ。やっぱり凛花ちゃんは可愛いな。次は私が凛花ちゃんの浴衣選んであげるね?」
衣吹ちゃんは浴衣の中から、薄いピンクの花模様が描かれたものを選んでくれた。帯の色は淡い黄色で可愛らしい印象を受ける。
「どう?凛花ちゃん?」
「あたしはこれにする!」
「じゃあ、せっかくだから私も凛花ちゃんが選んでくれた浴衣にしよう。」
お互いに選び合った浴衣を買うことにした。その後、フードコートに行って、アイスクリームを食べながら夏祭りについて話すことにする。
「お祭りって何時からだっけ?」
「確か17時30分くらいかな。花火の時間が確か20時だったよ。」
「へぇ~そうなんだ。楽しみだなぁ。」
アイスを食べ終わり、ショッピングモールを出る頃にはもう16時過ぎになっていた。そろそろ家に帰ろうと思い、衣吹ちゃんと一緒に帰ることにした。
帰り道の途中にある公園に差し掛かったところで、突然雨が降ってきた。急に降り出したため、傘を持っていなかったあたしたちは慌てて近くの木の下へと避難した。
「うわー、びっくりした。いきなり降り出すなんて思わなかったね。」
「うん。天気予報では晴れだって言ってたんだけどね。ゲリラ豪雨みたいな感じなのかな?」
「多分そうだね。結構濡れちゃったね。ちょっと寒いかも……。」
そう言う衣吹ちゃんを見ると、雨に濡れて下着が透けてる……。えっと、これは見てはいけないものだよね……。衣吹ちゃんはあたしの様子に気付いたのか、自分の身体を見た後に頬を赤く染めていた。あたしも顔が熱くなるのを感じながらも、必死に平静を保つように頑張っていると、衣吹ちゃんの方から口を開いた。
「凛花ちゃん……そういうの困るよ。私一応まだ凛花ちゃんの事好きなんだから……もしかして私の事を好きなの?とか期待……しちゃう……」
「ごめん!でも……やっぱりドキドキしちゃうし……その……ごめん……」
「いいよ。凛花ちゃんの反応が普通だと思うし。あのさ凛花ちゃん、もしよかったらだけど、……あそこに入らない?」
「えっ!?あそこってあのホテル!?」
衣吹ちゃんが指をさしたのは、いわゆるラブホテルと呼ばれる場所だ。まぁ最近は女子会とかもする人も多いと聞くけどさ……。まさかこんな形で入ることになるとは思ってなかったけど……。でもこのままじゃ風邪ひいちゃうし……。
とりあえずあたしたちは服を乾かすために、ホテルに入ることになった。受付で鍵を受け取り部屋へと向かう。部屋に着いて、まずはシャワーを浴びることになった。そして今は浴室にいる。衣吹ちゃんはもう既にシャワーを終えて、髪をドライヤーで乾かしていた。
あたしは衣吹ちゃんが入っている間に、急いで髪や体を洗うことにして、手早く済ませた。それから衣吹ちゃんと一緒にベッドに座って、しばらく話をすることにした。
あたしはふと気になったことを聞いてみることにした。
「あのさ衣吹ちゃん。今更なんだけど、衣吹ちゃんはなんであたしのこと好きになったの?」
「振った相手にそれ聞くの?」
「いや気になって……あたし別に特別可愛いわけじゃないしさ」
「最初は隣の席の女の子。私は遠い花咲学園に通うしかなかったから。友達として仲良しになれたらいいなって思っただけだった。でもね、凛花ちゃんと仲良くなるうちに自分の好きが恋愛感情だと気づいたの。」
衣吹ちゃんはそう言いながら、少し寂しげに微笑んでいた。あたしは衣吹ちゃんになんて言葉をかければいいのだろう。
あたしが悩んでいる間にも衣吹ちゃんは話を続ける。そして、あたしにゆっくりと近づいてきた。衣吹ちゃんはあたしの隣に座り、腕に抱きついてきた。
あたしは衣吹ちゃんに優しく抱きしめられてしまった。衣吹ちゃんの温もりを感じると同時に、胸の鼓動も伝わってくる。
「衣吹ちゃん!?」
「凛花ちゃん……私としてみる?」
そう言った衣吹ちゃんの顔はとても切なげで、今まで見たことの無い表情をしていた。あたしは思わずドキッとしてしまった。