48. Anotherstory.3 ~【線香花火】結愛視点~
私は自分の家である人物を待っている。私が凛花に話したことは嘘。実家に帰るつもりなんてない。だからそろそろ来るはず、昨日も電話を無視したから。
はぁ憂鬱だわ。私はスマホの写真を見る。そう凛花が夏休みに入って送ってくれた写真。最近は海や花火の写真がきたわね。凛花は私のLINEにメッセージを毎日送ってくれる。それを見るたび私の事を考えてくれているんだって少し嬉しくなる。
ピンポーンとチャイムが鳴る。来たわね。私は玄関を開ける。そこには私の両親がいた。
「結愛。母さんから聞いたぞ電話くらいでなさい。」
「はいはい分かったわよ。それで何の用?私忙しいんだけど?」
「その態度は何なんだ!わざわざ時間を作って来たと言うのに!」
「まあまあ父さん落ち着いてください。結愛。あがるわよ。」
母は父の肩に手を置き落ち着かせる。そして家の中に入る。わざわざ?実の娘のところに時間を作ってとか言うなら来なくてもいいのに。
リビングに行くとソファーに座らされる。父は腕を組み私を睨む。母は無表情で私のことを見つめる。何よその目は。気に入らないわね。早く帰ってくれないかしら。
そんなことを考えていた時だった。父が口を開く。
「いい加減まともになったか?」
「まともって?私は真面目に学校に行ってるし、人に迷惑なんかかけていないのだけど?」
「ふざけるな!!お前は昔っからそうだ!人の気持ちを考えたことがあるのか!?あんな恥ずかしいことをして!」
「あー。私が女性を好きってことかしら?」
「それ以外に何がある!あんな変な本を親の許可なく出しおって!周りからどう見られているか分かっているのか!?」
そう言って父は机の上にあった物を手で払い飛ばす。
バァンッ!!! 勢いよく当たった物は音を立てながら床に転がる。本棚に入れてあった本達だ。私のお気に入りの小説など色々な物が散乱する。
「物に当たっても、私が女の子を好きな気持ちは変わらないわよ?」
「結愛!いい加減にしなさい!あんたのせいでこんな風になったんでしょ!!!」
ああ、この人達は何を言っているんだろう。まるで自分が被害者みたいな言い方をして。私のせい?違うわよね。
「結愛よく考えるんだ。例えそう言う女性が出来たとして、その女性の両親はどう思う?今の私たちと同じ気持ちになるに決まっているだろう」
「そんなのは……分かっているわ。」
「ならいい。どうせ一人暮らしは卒業するまでの約束だ。卒業したら私たちが選んだ相手と見合いし結婚しろ。いいな?」
「……話しはそれだけ?もう帰って」
◇◇◇
両親が帰った後の部屋。散らばった小説。まったく大の大人が恥ずかしくないのかしらね?その時一冊の小説を見つけ手に取る。
「……【雪月花】……私の大切な小説……私の経験を書いた小説。」
そんな時、私のスマホが鳴る。はぁ……また電話?ここで怒鳴ったくせに物足りないのかしら?画面を見るとそれは親からじゃなくて凛花からだった。私は急いで電話に出る。
「もしもし!凛花!」
《あっ結愛先パイ?今電話大丈夫ですか?》
「ええ。大丈夫よ。どうかしたの?」
《結愛先パイはタコとイカどっちが好きですか?可愛いキーホルダーがあったから買おうかなって思って。》
なんでそんな質問をするのよ。まったく凛花らしいわね。久しぶりに聞いた凛花の声に私は嬉しくなる。
「私はタコかしら?凛花みたいで。あなたすぐ赤くなるし、タコみたいに口を尖らせるじゃない?」
《そんなことしてませんよ!あっ……もう!周りの人に変な目で見られましたよ。分かりました買って帰りますね》
凛花との電話の最中に父から言われた言葉を思い出す。相手の両親がどう思うか……。凛花の両親もきっと私の父と同じ反応する。自分でも分かっている。それでも後悔したくないから最後まで……。
《結愛先パイ?聞いてます?》
「……ねぇ凛花。私、明日には戻れそうなの。その……もし用事がないなら明日私の家に来ない?早く会いたいわ」
《え!?本当に!?行きます!》
その言葉は私に幸せをくれる。そして私という存在を。凛花。私にはあなたが必要なの。
それは、あなたに迷惑をかけることになるかもしれない。それでも、私はあなたのそばにいたい。どんな事が起きようとも。
最後まで輝き続ける線香花火のように……この気持ちに嘘はつきたくないから。