47. Anotherstory.3 ~【線香花火】凛花視点~
旅行最終日。今日は海水浴をして夜に花火をやる予定だ。あたしは昨日の一件から衣吹ちゃんとぎこちない関係になっていた。海では、みんなで泳いだり砂遊びをしたりして楽しかったけど、あたしの気持ちが晴れることは無かった。
そして夜になる。途中のコンビニで花火を買い、砂浜に行く。せっかくだからいっぱい楽しんじゃおう!とか春菜ちゃんはテンションが上がっていて、かなりの種類の花火を買ったのだ。
「やっぱり……これ買いすぎじゃない?」
「そんなことないって!いっぱい楽しんじゃおう!どれにしようかな…?」
サキちゃんが呆れている中、あたしたちは花火を選び始める。打ち上げ花火も手持ち花火もあるなんて贅沢だなあ。線香花火は定番だけど、やっぱり夏と言えばこれだよね。
「あっバケツ忘れた!もう……サキちゃん取りに行くの付き合って!」
「えぇ……。仕方ないな。凛花と水瀬さん待ってて。手持ち花火なら先にやってていいよ」
春菜ちゃんとサキちゃんはバケツを取りに戻る。あたしは線香花火を手に取る……。あの小説と同じ【線香花火】。火をつけてパチパチと燃える様を見る。とても幻想的だ。そんな時、衣吹ちゃんがやってくる。やっぱり気まずい……。そして衣吹ちゃんは何も言わず線香花火に火をつける。
「私さ、ずっと考えてたんだ。あの時に凛花ちゃんにキスしちゃったこと。本当に正しかったのかなって。ただ私は自分の考えを押し付けただけなのかなって」
「えっ……」
そう言って衣吹ちゃんは少し悲しげな表情をする。
「あれは衣吹ちゃんのせいじゃないよ。あたしも……少ししたいと思っちゃったし……。だからあたしも悪いの。」
「しかも……あんなひとりでシちゃって……恥ずかしいよね」
「そっそんなことないよ!みんなしてるよ。実はあたしも……衣吹ちゃんがシャワー浴びてるときにシたんだよね……」
「凛花ちゃん……」
それからしばらく沈黙が続く。すると衣吹ちゃんは口を開いた。
「……このままじゃダメ。やっぱり言わなくちゃ」
「衣吹ちゃん?」
「あのね、私。凛花ちゃんが好き。大好きなの。自分の気持ちに嘘つけなくなっちゃった。」
「えっ……」
「凛花ちゃんが小鳥遊先輩の事好きなのは知ってるし、私と付き合ってほしいなんて言わない。でもこの気持ちだけは伝えたかったの。」
まさか告白されるなんて思ってなかった。今までこんな経験した事無かったから頭が真っ白になった。どうしたらいいかわかんなくなって、とりあえず何か話そうと必死に考える。でも言葉が出ない。
「ごめんね急に。凛花ちゃんには幸せになってほしいし、だから諦めようと思ってたのに。でも伝えないと後悔しそうだったんだもん……だからごめんなさい。」
「衣吹ちゃん……あたし……」
その時だった。
バチンッ!!大きな音を立てて、線香花火が落ちてしまった。
「あっ!落ちちゃった……。」
「ふふっ。タイミング悪いなぁ凛花ちゃんは。」
そう言う衣吹ちゃんは悲しそうな笑顔をしていた。その顔を見たら胸が苦しくなった。なんでだろう?どうしてこんなに苦しいんだろう?……わからない。何もかもがわからなかった。
「線香花火……よく小説でも出てくる。とても儚い、最後は自分の存在を確かめながら燃え尽きていく……。」
「衣吹ちゃん……。」
「それは恋にも似ていると思うの。一瞬の出来事ですぐに消えてしまう。でもその短い時間の中で精一杯輝く……。」
衣吹ちゃんの目を見ると涙を浮かべていた。……ああ、そっか。やっとわかった気がする。今なら言えるかもしれない。あたしの本当の気持ちを。あたしは覚悟を決めて口を開く。そして言った。
「ありがとう、衣吹ちゃん。でもごめん。あたし結愛先パイが好きなの」
「うん……。知ってる。」
衣吹ちゃんは泣きながら優しく微笑む。それからしばらくして落ち着いた頃、衣吹ちゃんがこう言ってきた。
「ねえ凛花ちゃん。昨日の大富豪の私のお願い残ってるよね?」
「そうだね……。」
「ふふっ。安心して、小鳥遊先輩と別れて私と付き合ってとか言わないから。……私とこれからも仲良くしてほしいです……。ダメかな?」
「ダメなわけないじゃん。衣吹ちゃんは私の親友だもん!サキちゃんと春菜ちゃんも!」
あたしの言葉を聞いた衣吹ちゃんは再び嬉しそうに笑う。よかった。これでいいんだよきっと。
それは線香花火のような淡い恋。それでも確かに最後まで輝き続けた。