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45. ハラハラ大富豪

45. ハラハラ大富豪




 大富豪。それは、この国の貴族階級ですら羨むほどの富と権力を持つ者たちである。そしてその中でも特に力がある一族が、今目の前にいる……。


 と、よくあるライトノベルの書き出しが頭に浮かんできてしまう。あたしは今、春菜ちゃんの提案でトランプの罰ゲームつき大富豪をやっている。


 この小説の主人公と同じ気持ちになる……。だって……。


「また水瀬さんの勝ちかぁ!強すぎ!」


「そんなことないよ。たまたまだよ日下部さん。」


 衣吹ちゃんが大富豪になるのはもうこれで8回目だ。というかまだ8回しかやってない。ずっと衣吹ちゃんは大富豪だ。言わなくてもわかると思うけど大貧民はあたしと春菜ちゃんだ。お互い4回ずつ。


「凛花、春菜。次負けたら罰ゲームだからね?」


「分かってるよ!言わないでよサキちゃん!」


「あたしは負けない!罰ゲームは回避する!」


「2人とも頑張ってね。でも私は手は抜かないからね?」


 余裕がある衣吹ちゃん。春菜ちゃん……許してね……あたしは負けるわけにはいかないんだ……。この勝負にすべての想いを込める!だからあたしに力を貸して!


 と、これまたライトノベルのバトルシーンみたいなセリフが頭の中に浮かぶ。へ?違うよ?フラグじゃないよ?今までの流れを考えれば、あたしと春菜ちゃんの戦いになる可能性がある。だからあたしはみんなに提案を持ちかける。


「あのさ提案!罰ゲームやめて、最下位になった人が1位の人の言うことを何でも聞くってルールに変更しよう!」


 そうすれば春菜ちゃんもあたしも、衣吹ちゃんの命令を聞くことになる。これがあたしの考えた最善策だ。我ながら天才かもしれない。


 すると、カランッ 氷の入ったグラスの中の音が鳴った。音の発生源はもちろん衣吹ちゃんだ。衣吹ちゃんはグラスを手に持ち、中の水を少し飲んで言った。


「ふぅ……緊張するね。始めようか。」


 ……あれ?なんか様子がおかしい?なんかスイッチ入っちゃった!?衣吹ちゃんの雰囲気が変わったような気がした。気のせいかな……?


 結果を言うと、あたしは負けた。というか、勝てるはずがなかったのだ。衣吹ちゃんはすごい集中力で場のカード、手札を支配した。


 まるで未来が見えているかのように。そしてその未来が現実になるようにカードを操っていた……。と思うくらいに完敗だった。結愛先パイみたいなチート能力を衣吹ちゃんが使えるなんて……。


 なんなんだよぉ~!あたしがこんなに弱いなんてぇ~!あぁ~!悔しいぃ~!!こうしてあたしたちの大富豪大会は終了した。結局衣吹ちゃんの願いは考えてから言われる事になった。


 もしかして……この前みたいに……


 きっ……キスとかだったり……いやそれ以上の……。


 とか想像すると、顔が熱くなる。多分真っ赤になっているだろう。恥ずかしくて顔を上げられなくなる。衣吹ちゃんに何をされるのか……。あたしはどんな事を命令されてしまうんだろうか……。うわぁ……ドキドキしてきた。どうしよう……。


 その後みんなで温泉に入りに行く。えっと……混浴はないよね?大丈夫だよね?まぁそんなことは置いておいて……。今あたしたちは旅館内のお風呂場に向かっている。そこにはかなり広い露天風呂があるらしい。早速入ることにする。


「痛い~!日焼けしたぁ!日焼け止め塗ったのに~!」


「え?どれどれ?」


「ちょっとサキちゃん……二の腕触らないでよ……」


「ごめんごめん。それにしても……水瀬さんはいいものをお持ちで?」


「サキちゃん。それセクハラだよ?でも確かに同性の私も目のやり場に困るかも。」


「そんなことないよ。」


 これが女子高生の会話か。あたしはそれを横目に、肩まで湯に浸かる。気持ち良い……このまま寝ちゃいたいくらいだ。


「ねぇねぇ!明日は夏休みの宿題をやる予定だけど、明後日の夜に花火やりたくない?最後の日だし。」


「いいね。たまにはいいこと言うじゃん春菜。水瀬さんと凛花もいいでしょ?」


「うん。もちろんいいよ。花火かぁ。」


 衣吹ちゃんがボソッと呟く。どうかしたのかな……気になる。露天風呂を出て、今日は疲れたのでそのまま部屋に戻った。あたしはもちろん衣吹ちゃんと同じ部屋にいる。あたしはそのまま布団に寝転ぶ。


「はぁ。今日は疲れたけど楽しかったね?少し背中が痛いような……あたしも日焼けしたかも?」


「凛花ちゃん。それならクリーム塗ってあげる?私持ってるし。」


「えっいいの?お願いしようかな。明日も痛いの嫌だしさ。」


「うん。それじゃ浴衣脱いでうつ伏せになって。」


 あたしは言われた通り浴衣を脱ぎ、下着姿になる。やっぱりすごい恥ずかしい……。衣吹ちゃんはそのままあたしの背中にクリームを塗り始める。少し冷たいけど気持ちいい。


「凛花ちゃんの肌白いね?綺麗。」


「あっありがとう。その……あたしも塗ってあげようか?」


「ほんと?嬉しいな。それじゃ……お願いします。」


 衣吹ちゃんが嬉しそうに言う。なんだろ……この感情は……。衣吹ちゃんのことがすごく可愛らしく見える。衣吹ちゃんも浴衣を脱ぎ始める。あたしはドキドキしながら、衣吹ちゃんの背中にクリームを塗る。何これ……。すべすべしてる……。それに……柔らかい。


 あたしは無意識のうちに、衣吹ちゃんの身体に手を伸ばしていた。


「凛花ちゃん!そこは……背中じゃなくて……胸だから……」


「えっ!?ごっごめん!」


 慌てて手を離す。あたしはなんてことをしてるんだろう……。少しの沈黙の後、衣吹ちゃんが口を開いた。


「……我慢できなくなっちゃうよ?」


「えっとそのごめん!」


「ふふ。冗談だよ。もう寝ようか。明日寝坊しちゃうと大変だし。」


「あっうん。そうだね。」


 うぅ……ダメだ。また想像して眠れなくなりそう……とか自分の手を見ながら思うのでした。

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