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38. Story.4 ~【あなたへの詩】~②

38. Story.4 ~【あなたへの詩】~②




 7月。あたしが花咲学園に入学してから3ヶ月がたとうとしている。そして1学期ももう少しで終わりだ。……うん、もう何て言うかあれだよ。夏休みまであと少し!って感じのこの空気感とっても好き!!


 今日は部活も休みなので、あたしはサキちゃんとお茶をしにカフェに向かっている。


「うぅ……暑い~……溶けそうだよサキちゃん。」


「大袈裟だなぁ凛花は。確かに暑いけどさ」


 あたしは手であおぎながら歩いている。こりゃ熱中症になるよ。まあ水分補給してるから大丈夫だけどね。ちなみにサキちゃんは汗ひとつかいていない。代謝が違うわ。しばらく歩くと目的の場所に着いた。


 カランコロンッ ドアを開けると心地よい鈴の音が鳴る。店内に入ると冷房が効いていてとても涼しい。店員さんに案内され席に着く。


 メニュー表を開くとそこには様々な種類のケーキやパフェなどが並んでいた。どれも美味しそうで目移りしてしまう。あたしたちは注文をして飲み物を待っている間におしゃべりをする。


「そう言えば風邪治ったんだ凛花。」


「えっ風邪?あたし風邪ひいてたっけ?」


「喉ガラガラだったじゃん。身体も怠いって言ってたし。あれ風邪じゃないの?」


 うっ……。言わないでサキちゃん。結愛先パイに分からされた日の事を思い出しちゃうじゃん。恥ずかしい。あの日は本当に大変だったなー。まさかあんなことになるとは思わなかったよ。しかも2日間も……。


 そんなことを話しているうちに頼んでいたドリンクが届いた。ストローを口にくわえると炭酸特有のシュワシュワした感覚が広がる。


「ん~冷たい!!!これぞ夏の味!最高!!」


「凛花はなんか楽しそうでいいね?私なんて夏バテ気味なのに……」


 はしゃいでいるあたしを見て呆れているサキちゃん。でもその顔には笑顔があった。


「だってこうやってサキちゃんとおしゃべりするの楽しいじゃん!」


「それは私もだけどさ。それにしても凛花のテンション高すぎじゃない?何かあったの?」


 あたし……はしゃいじゃってるのかな?それはこの前の俳句のせいかもしれない。結愛先パイの気持ちがすごく嬉しかったし。でも。あたしは結愛先パイの事を本当に好きなのかな……。衣吹ちゃんともキスしちゃったし……まだ分からない。自分の本当の気持ちが。


 それからまたしばらくしてお店を出ることにした。外に出ると思ったより暑く感じる。そしてそのまま本屋さんに向かう。最近また小説読んでないし。


「凛花はまた小説買うの?」


「うん。どれがいいかな?」


「これなんかいいんじゃない?昔流行った小説の再刊だって。また人気が出るのは凄いね。」


「どれどれ?【あなたへの詩】か。って?これ百合小説じゃん。最近百合小説を多く見かけるんだけど、そんなに人気なんだ……。」


 あたしは思わず苦笑いしてしまった。とりあえずあらすじを見てみる事にする。


【あなたへの詩:あらすじ】

 主人公の滝本優菜(たきもとゆうな)は歌が好きで自分で曲を作るのが趣味。そんなある日、学校の帰り道で1人の少女赤崎美玲(あかさきみれい)と出会う。美玲はある理由から男性恐怖症になっていた。彼女は優しくて明るくて可愛くて……まるで天使のような女の子だった。


 しかし彼女の秘密を知ってしまう。実は男嫌いではなく女が好きだという事が分かったのだ。そんな彼女が自分に好意を寄せていることにも気付く。そこから恋が始まるのだが……


 ふむ。確かに面白そうだね。あたしは早速レジに向かい購入することにした。そして家に帰りいつものようにご飯を食べお風呂に入る。


「さて。【あなたへの詩】でも読もうかな。」


 ページをめくる音が部屋に響く。【あなたへの詩】を読んでみた感想を言うと意外と面白いかも。主人公は普通の女子高生だし、恋愛対象は女子のみという珍しい設定だ。


 物語の内容としては、主人公である優菜が学校ではクールでカッコイイ美少女としてみんなから憧れられている。でも主人公が恋をしていくにつれて、どんどん素が出てきちゃうっていう展開だ。


 最初はクールでキリッとした表情で告白してくる男の子を振っていくけど、好きな人の前では段々とデレていっちゃう感じで可愛い。最後も良かった。ヒロインである美玲が優菜に想いを伝え、優菜が美玲に自作の曲を歌うシーンだ。


 この主人公の優菜の境遇……なんかあたしに似ているよね……。美玲は結愛先パイ。でも性格や行動はお互いに反対のあたしが美玲、結愛先パイが優菜に似ている。


 あたしは曲なんて作れないし、歌えないけど、結愛先パイにきちんと気持ちを伝えたことはない。伝えるべきだよね……。あたしは本を閉じながらそう思ったのだった。

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