33. Anotherstory.2 ~【月明かりの秘密の魔法】~①
あたしは今、衣吹ちゃんの家に来ている。再来週におこなわれる中間テストの勉強をお泊まりでやるつもりだ。まぁ勉強って言っても……雑談しながらするんだけどね。
そして今、お風呂が沸いたと知らせが来たから、衣吹ちゃんに先に入ってもらった。その間に部屋を片付けていたのだけれど……。ふと本棚から一冊の小説を見つける。
「あれ?この本……」
【月明かりの秘密の魔法:あらすじ】
漆黒を奏でる夜空。そんな星が見えない夜は想いを月に託して。あなたへのこの気持ちを伝えようと何度も願った。だけど叶わない願いだってわかっている。だから私は今日も月を見上げて祈る。どうか私の恋が実りますように。そんな些細な祈りを神様は叶えてくれるのか応援してくれているのか、今夜はいつもより月が綺麗に見える。
だから初めてワガママ言うよ……この気持ちは届かないかもしれないけれど……今日だけは……月明かりに照らされている間だけなら許されるはずだから……まるで魔法にかけられたみたいに。
ふむ。なんか切ない内容だなぁ……。衣吹ちゃんこういうの好きなんだ。一応……百合小説みたいだけど。
「凛花ちゃん。どうしたの?」
お風呂上がりの衣吹ちゃんが話しかけてきた。タオル一枚巻いているだけの姿だけど……。というか、女の子同士なんだから別にいいよね?
「あっごめん。見たことない小説があったから。」
「どれ?凛花ちゃんも読んだことないの私持ってたんだね。」
そう言いながらあたしに顔を近づける衣吹ちゃん……石鹸のいい香りがするなぁ。しかも胸当たってる……。これはわざとなの?いや、絶対天然だろうけどさ。そんな事を考えながらも平然を装う。
「凛花ちゃんもお風呂入ってきたら?」
「あっうん。そうしようかな。」
とりあえずお風呂に入ることにする。あたしも衣吹ちゃんみたいにスタイル良くなりたい……。お風呂から上がって衣吹ちゃんの部屋に戻ると、いきなり衣吹ちゃんが謝ってくる。
「ごめん凛花ちゃん!」
「どうしたの!?何かあったの!?」
「その……。私考えてなくて……布団がないの。寝るの同じベッドでもいい?嫌だよね?」
「嫌じゃないけど……衣吹ちゃんはいいの?狭くない?なんなら、あたし床で寝るけど?」
「そんなのダメだよ!私は大丈夫。ごめんね凛花ちゃん。」
そんなに謝ることじゃないけどね。こうしてあたしと衣吹ちゃんは一緒に一つのベットで寝ることになった。そして電気を消して横になる。しかし、なかなか眠れない。隣には衣吹ちゃんがいるわけだし。すると衣吹ちゃんが口を開く。
「ねぇ、凛花ちゃん。起きてる? 」
「うん。起きてるよ」
「あのね、実は私今日ずっと緊張していたの。」
「えっなんで?」
意外な言葉だった。なんで緊張してるんだろう?そんなことを考えていると衣吹ちゃんが話を続ける。
「いつもは麻宮さんや日下部さん、それに小鳥遊先輩もいるけど、今日は私と二人きりだから……断わられたり、迷惑だったらどうしようって。」
「特別な用事がなければ断らないよ。迷惑だとも思ってないよ」
「うん。分かってる凛花ちゃんは優しいから。でも……私は人が怖いの。」
そうだよね。今まで辛い思いだってしてきたはずだ。あたしは何も言わず衣吹ちゃんの手を握る。少し震えてたけどすぐに収まった。
「凛花ちゃん……ごめん。また困らせちゃう。私変なの……。」
「えっ?」
すると衣吹ちゃんがあたしに抱きつく。柔らかい感触が身体に伝わる。あー。夜はつけないんだ衣吹ちゃんは。苦しいもんね。じゃなくて!こんな状況初めてすぎて頭が混乱している。ど、どうすればいいの!? あたしが戸惑っていると、衣吹ちゃんが話し出す。
「少しこうしててもいい?凛花ちゃんにくっつくと安心するの。」
「そっそうなの?別にいいけど……。」
自分の鼓動が速くなるのがわかる。衣吹ちゃんに伝わっちゃわないかな?身体も熱くなるし……どうしよう。
「凛花ちゃん。ドキドキしてる。」
「へっ?そりゃ……衣吹ちゃんに抱きつかれてるから……。」
「そっか。あのさ凛花ちゃん。……キスしたことある?」
突然すぎる質問にびっくりする。どうしてそんなことを聞くのか分からないけど……。
「私としてみる?キス。」
「えっ!?あたしと衣吹ちゃんは女の子同士だよ!?どうしたの変だよ衣吹ちゃん!?」
「うん。私変なの。ごめんね凛花ちゃん。」
衣吹ちゃんの顔が近づいてくる。あたしはそれを止めることが出来なかった。そのまま唇が触れる。柔らかく温かい感触。そして衣吹ちゃんが離れていく。
あたしは何が起きたか理解できなかった。夢なのかなこれ?現実だよね?心臓の音が大きくなっていく。すると衣吹ちゃんが言う。
「今日だけ……ワガママになってもいい?」
月明かりに照らされた衣吹ちゃんの顔はとても綺麗で可愛かった。あたしは黙ってうなずくことしか出来なかった。