31. 教訓
外は大雨。まだ梅雨明けまでは、少しかかるようだ。こういう空模様の時は憂鬱になると小説では描写されるけど、確かにそうかもしれない。あたしは今、小説演劇同好会の部室にいる。もちろん結愛先パイも一緒だ。
部室の中は殺風景で机と椅子。本棚には多少の文学書が並んでいて、部屋の隅にパソコンが置かれているくらい。でもこの部屋は静かで、とても居心地が良い。結愛先パイがなにもしなければだけどね……。
「ねぇ凛花。」
ほら来た。どうせまた訳の分からないこと言われるんでしょうね?ええ分かってますとも!
「なんですか?また変なことですか?」
「違うわよ。失礼ね。喉が乾かない?外の自販機で飲み物を買って来てほしいんだけど。奢ってあげるから。」
「何飲みますか?結愛先パイ!走って買ってきますから!」
「あなたのそういう潔いところ、好きよ。お茶でいいわ。お願いね凛花。」
ああもう!結愛先パイずるいなぁ……その笑顔反則だよぉ…… あたしは傘を差して雨の中に飛び出した。さっきまで降っていた大雨は小雨になっていた。アスファルトには水溜まりが出来ている。
校舎の入り口にある自動販売機でお茶を買い部室に戻る。
「買ってきましたよ。はい結愛先パイ。」
「ありがとう凛花。」
普通にお茶を受け取り、また小説を読み始める。そしてあたしの分の飲み物を奢る……。おかしい。熱でもあるのだろうか?結愛先パイの顔を見ると、いつものように微笑んでいる。やっぱりおかしい。普段ならこんなこと絶対しない人なのに。
「ん?どうかしたの?凛花?」
「こっちのセリフなんですけど。」
「え?」
キョトンとしている。ますます怪しい。何を企んでるんですか!結愛先パイが如何にも先輩です。みたいな、最もらしいことするなんておかしい!
「なに?変な凛花。」
「だって今日の結愛先パイ変ですよ。なんかこう……優しくて気持ち悪い……」
「失礼ねあなた。私が優しいだけじゃ不満なの?」
「うっ……そ、そんな事ないですけど、ただ……今日は何かあったのかなって思っただけです……。」
結愛先パイはクスッと笑った後、あたしに近づいてくる。
「それヤバいわね凛花。あなた刺激が欲しくなってるわよ?イヤらしいんだから。」
「ちが…そんなんじゃ……」
更に結愛先パイはあたしに近づいてくる。顔が近い……。やばいドキドキしてきた。
「そう言えば凛花に貸しがあったわね?ほら…んー。ご褒美にキスして。」
「え!?ここでですか!?」
「そうよ。早くしないと誰か来ちゃうわよ?」
あ、あれかな?演技なのかな?本当にしてほしいわけじゃないよね?こんなところで?
「あたし……しませんよ!結愛先パイ!」
「ふぅん。嫌なんだ。私に借りがあるくせに。良い度胸ね。なら今度あなたの初めてを貰うことにするわ?それだけは私もしなかったけど?嫌ならキスして?」
結愛先パイはいつも通り悪い顔をしている。完全に楽しんでいるみたいだ。ああもう!仕方がない!あたしは覚悟を決めた。
「分かりましたよ……。」
「あら?学校でしちゃうの?凛花。イヤらしいんだから。」
結愛先パイはあたしをからかうが無視することにする。気にしたら負けだ。それにあたしの処女のほうが大切だよ!
あたしはゆっくりと結愛先パイに近づく。
「ちょっと!目くらい閉じてくださいよ!恥ずかしいんですから!」
「閉じちゃったら、その恥ずかしい顔をした凛花が見えないじゃない?だから嫌。はい。んー。」
そう言って唇を付き出してくる結愛先パイ。もうどうにでもなれ!あたしは結愛先パイの肩を掴みその柔らかそうな唇に自分の唇を近づけていく。
この学校の部室という状況に心臓がバクバク鳴っている。全身の血流が激しくなっている感じだ。
その時だった。
ガラッ!ガララララ! 勢いよくドアが開かれた。あたしは驚きのあまり、その場で固まってしまった。そこには学校新聞を持った春菜ちゃんがいた。
「ちょ…何してるの凛花ちゃん?今小鳥遊先輩にきっ……キスしようとしてた!?」
「春菜ちゃん!?これは違うの!活動の一環で!」
「日下部さん、そうなの……。いきなり凛花が襲ってきて……。」
「結愛先パイ!?そういうのやめてくださいよ!?襲ってないですよ!?」
結愛先パイはあたしの慌てる姿を見て、またクスクス笑っていた。本当にこの人は……。でも嫌いになれないあたしがいる……。本当にずるい。結局その後春菜ちゃんの誤解は解けた。
うん。やっぱり結愛先パイとは学校では絡まないほうがいい。気にしたら負けだ。あたしは、そう教訓を得るのだった。