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30. Anotherstory.1 ~【雪月花】結愛視点~

30. Anotherstory.1 ~【雪月花】結愛視点~




 私と凛花の小説演劇同好会は日下部さんの密着取材を終えた。まぁ嘘の活動をそれっぽくやったから問題はないでしょ?さすがの私もまだ凛花との関係がバレる訳にはいかないし。もう少し楽しみたいからね。というかこれで凛花には貸しが二つになった。さて、どうやって凛花のこと可愛がってあげようかしら?


 そんなことを考えていると、麻宮さんと日下部さんがお風呂から戻ってくる。


「小鳥遊先輩。先にお風呂いただきました。ありがとうございます。」


「あのあの!この後またみんなでトランプ大会しません?小鳥遊先輩いいですよね?」


「ええ。私は構わないわよ。」


 本当にこの子は元気ね。でもそれがこの子の良いところよね。それより私は気になる子がいる。


「じゃあババ抜きね!決まり!」


「えっ?また?」


「私はバカだから、そういう頭を使わない簡単なやつしか勝てないの!察してよねサキちゃん!」


「春菜……自分で言って悲しくない?」


 そう。あの【雪月花】の考察をした水瀬衣吹。あの子には何かある。私の直感だけどね。


「私は神経衰弱とか記憶する頭ないんだよ?記憶力ないんだから。そういうのは頭がいい人ができる。そう思いませんか小鳥遊先輩?」


「え?あー。そうとも限らないんじゃないかしら?私はそこに興味があるかないかだと思うわよ?」


「いいこと言いますね小鳥遊先輩。だって春菜?勉強も少しは興味持ったほうがいいよ?中間テストもあるんだから。」


 そしてあの子の目。分かるわ。間違いなく私を嫌っている。私が彼女のことを警戒しているのはそのせい。私を睨む目が明らかに敵意を抱いているもの。


 そして恒例のトランプ大会が終わり、みんなが寝静まった後、私はリビングで例の【雪月花】を読むことにする。何年も前の小説、もう数えきれないくらい読んだ。それでもこの小説は私の大切なもの。私の宝物なの。


 そして改めて読み直しても思う。やはり水瀬衣吹はきっと……。


 そんなことを考えているとリビングの扉が開く。そこにいたのは凛花だった。私はいつものように凛花に言う。


「あら凛花?もしかして我慢できなくなったの?」


「違います!喉が乾いただけです。お水もらいますね。」


「あら。残念。」


 まったく……顔を赤くしちゃって、可愛いんだから。そういえばあの時以来キスしていないわね。すこしくらい困らせちゃおうかしら?


 私が言うのもあれだけど、凛花は押しに弱いし、きっと私が迫れば断われない。でもこんな時間に部屋に誘うなんてできないわね。でもしたいわね。まぁ我慢するけど。


 この前の凛花も可愛かったけど、いつもの受け身の凛花はもっと可愛い。凛花は警戒して違う部屋で寝ているし、部屋決めの時の必死な凛花も可愛いかったわ。コップに水を注いでそれを一気に飲み干す凛花。ふぅーっと声が漏れてる。あれくらいでドキドキしてるのね?本当に可愛い子。


「ねぇ凛花。」


「なんですか?」


「水瀬さんが考察した、この【雪月花】には本当に続きがあるの。」


 それを聞いた凛花の目が丸くなる。そんなに驚くことじゃないけど。


「この【雪月花】はね。作者本人の体験談を元に書かれたのよ。名前とか年齢とかは違うけどね。」


「そうなんですか!?それでその話の本当の結末はどうなったんですか?」


「それはね……。」


 その時、水瀬衣吹がやってくる。ちょうどいいタイミングね。


「あっ。ごめんなさい。喉が乾いてしまって……。」


「別に大丈夫だよ。大した話してなかったし、あたしもう寝るし。」


 やっぱり。この目、間違いないわ。この子は私と同じのようね。


「ねぇ水瀬さん?あなたこの【雪月花】好き?」


「はい。少し読んだだけですけど、好きになると思います。でもどうして急にそんなことを……。」


 そっけない態度。間違いない。この子は私に敵意を向けている。


「ううん。なんでもないわ。じゃあね。おやすみなさい。凛花、水瀬さん。」


「えっ?あ、はい。」


 水瀬衣吹。彼女は間違いなくこの【雪月花】の主人公の華宮咲良に感情移入しているわ。でもそれはきっと自分の本当の気持ちを隠すため……。


 この子は凛花が好きなんだわ。


 そう……私には分かるから。

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