29. Anotherstory.1 ~【雪月花】凛花視点~
あれから春菜ちゃんの密着取材を受けて、何事もなく無事に終わりを迎えた。いや?そうでもないか、密着取材が終わっただけだ。まだ油断しちゃダメ。あたしは今、この前と同じように衣吹ちゃんとお風呂に入っている。まだまだ夜は長い……。
「すごく楽しかったね。小鳥遊先輩の考察も凄い良かった。小説読むの楽しくなりそう。」
「いや衣吹ちゃんも凄かったけどね?結愛先パイも感心してたし、やっぱり頭がいいから。」
「そんなことないよ……。」
衣吹ちゃんは顔を下を俯く。どうしたんだろう。あたし変なこと言っちゃったかな?すると衣吹ちゃんは何かを決心したようにあたしに話す。
「実は……小鳥遊先輩が言ったことあながち間違いじゃないの。私ね。中学生の時、不登校だったんだ。だから学校にもあんまり行けなくて。いじめられてたの。」
「衣吹ちゃん……。」
「だからあの【雪月花】の主人公の華宮咲良に感情移入しちゃった。華宮咲良みたいになりたかったの。あんな風にみんなと仲良くしたいって思ったの。でも私は臆病で、怖くて逃げてばかりいた。それが今の自分なの。ごめんなさいこんな話して。お風呂出よう?」
衣吹ちゃんは涙を浮かべながら言う。あたしは何も言わず湯船から出てバスタオルを手に取り、身体についた水滴を取る。そしてあたしは後ろを向いてる衣吹ちゃんに向かって言う。
「衣吹ちゃんは臆病じゃないよ。こうやってあたしやサキちゃん、春菜ちゃん。そして結愛先パイと仲良くしてるじゃん。」
「えっ……。」
「誰でもそうだと思うよ。でもね、勇気を出して一歩踏み出したらさ、世界が変わったの。衣吹ちゃんが勇気を出したからだよ。だから衣吹ちゃんは強い子だと思う。」
そう言ってあたしは背中を向ける。恥ずかしいこと言ったかも。顔赤くなってないか心配だなぁ。それからしばらく沈黙が続いた後、衣吹ちゃんの声が聞こえてくる。衣吹ちゃんは震えた声で喋り始めた。
「ありがとう凛花ちゃん。これからもずっと友達でいてね?」
「うん!もちろん!」
そう言ってあたし達は笑い合った。そしてその日の夜。あたしは眠れなくてリビングに行く。もう結愛先パイの家にもなれたもんだ。第2の自宅みたいなものだしね。それにしても喉渇いたな。そしてリビングの扉を開けるとそこには小説を読んでいる結愛先パイがいた。
「あら凛花?もしかして我慢できなくなったの?」
「違います!喉が乾いただけです。お水もらいますね。」
「あら。残念。」
何が残念なんだ。みんなもいるのにそんなこと出来るわけないよね?ちなみにあたしはこの前の部屋では寝ていない。またいつ襲われるか分からない。自分で言うのは悲しいけどあたしは押しに弱すぎる。断れないしさ……。
だから今回はちゃんとしたところで寝ることにしたのだ。コップに水を注いでそれを一気に飲み干す。ふぅー。これでやっと落ち着いた。
「ねぇ凛花。」
「なんですか?」
「水瀬さんが考察した、この【雪月花】には本当に続きがあるの。」
それを聞いた瞬間あたしは驚いた。衣吹ちゃんの考察した小説には本当に続きがあったのか……。恐るべし衣吹ちゃん。
「この【雪月花】はね。作者本人の体験談を元に書かれたのよ。名前とか年齢とかは違うけどね。」
「そうなんですか!?」
まさかの作者本人による実話だったとは……。というか作者本人が体験したことを題材にするなんて、なかなかないと思うんだけど。でもそれが本当なら凄いな……。
「それでその話の本当の結末はどうなったんですか?」
「それはね……。」
その時、衣吹ちゃんがやってくる。
「あっ。ごめんなさい。喉が乾いてしまって……。」
「別に大丈夫だよ。大した話してなかったし、あたしもう寝るし。」
そして結愛先パイが衣吹ちゃんに問いかける。
「ねぇ水瀬さん?あなたこの【雪月花】好き?」
「はい。少し読んだだけですけど、好きになると思います。でもどうして急にそんなことを……。」
「ううん。なんでもないわ。じゃあね。おやすみなさい。凛花、水瀬さん。」
「えっ?あ、はい。」
そう言って結愛先パイは部屋に戻って行った。どういうこと?衣吹ちゃんは首を傾げている。まぁいいか、あたしも早く部屋に戻ろう。