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28. 部活動

28. 部活動




 今日は土曜日。相変わらず雨模様。気持ちもブルーって感じ。あたしは駅前で春菜ちゃんを待っている。春菜ちゃんの新聞部の密着取材を受けることになっているんだよね……。しかもお泊まりで。結愛先パイも結愛先パイだ。どうしてバレたら大変なのにわざわざ危険な事をするのか?


 あの人変態だよね。きっと。それか本当はドM。そういえばこの前も意外にすんなり受け入れてたし、本当はそっちなのでは?


 でもそんなことより今は春菜ちゃんをどう誤魔化すかなんだよね……。どうしようかなぁ……と悩んでいたら春菜ちゃんがやってきた。


「ごめんね!待った?」


「ううん。今来たところだよ。全然待ってないよ。って?なんでサキちゃんと衣吹ちゃんもいるの?」


「いや私も凛花の部活に興味あるからさ?」


「あれ?昨日の放課後。小鳥遊先輩が誘ってくれたんだけど……聞いてないの凛花ちゃん?」


 聞いてませんけど……。やっぱり結愛先パイは楽しんでるだけだ……。本当に変態!もうっ!!


 そうなるとこの前のお泊まり勉強会の時と同じじゃん。でもそのほうがバレずにすむかもしれないか。まぁよしとしよう!あたしたちは電車で結愛先パイの家に向かう。


「こんにちは。いらっしゃい。さぁどうぞ」


「お邪魔します!」


 みんなは挨拶をして先に中に行く。あたしは結愛先パイに話すことがあるのでまだ中には入らない。


「あら?どうしたの凛花?もしかしてキスしたくなった?」


「そんなわけないですよね。あのあたし聞いてませんけど?みんなが来ること」


「当たり前じゃない。サプライズなんだから。大勢のほうが楽しいし、燃え上がるじゃない?」


 何を燃え上がらせるつもりなんだ結愛先パイは?それにしてもよく考えればわかることだった。結愛先パイならこんなことをやりかねないという事に……。あたしが浅はかだった。


 それからみんなと合流し、早速簡単なインタビューが始まった。そしてインタビューが終わると今度は結愛先パイが何かが書かれた紙を持ってくる。


「これなんですか?小鳥遊先輩?」


「日下部さんは私たちの小説演劇同好会の活動を密着するんでしょ?これは今日の議題の小説よ?抜粋版ね」


「【雪月花】だって。読んだことある?凛花?」


「いやないけど……。」


【雪月花:あらすじ】

 主人公の女子高校生・華宮咲良(17)はある出来事がきっかけで不登校になる。しかしある日クラスメイトであり親友でもある少女・柚木香奈恵(16)によって学校に連れ出される。そこで華宮は学校生活を通して少しずつ変わっていく。


 それはまるで雪解け水が流れるように……ゆっくりと時間をかけて変化していく。やがて季節は巡り夏を迎える。そして夏休みに入り、とあるきっかけで2人は夏祭りに行き花火を見ることになる。だがその帰り道、2人の運命は大きく変わる事になる……。


「なんか面白そう。これをどうするんですか小鳥遊先輩?」


「読んで感想を言うの。思ったこと、感じたことを素直に。私と凛花はいつもやっているから三人にやってもらおうかしら。」


「それじゃ読みますね。感想のあと意見が欲しいかな凛花ちゃんに。」


「あっうん。分かったよ衣吹ちゃん。」


 真面目な部活だ。そういう風に見えてきた。いつもと違いすぎる。あれ?あたしが間違ってる?そうだよね。普通こういうのが部活動だよね!


 しばらくみんなが集中して読んでいる。あたしは読み終わった。内容は百合物の恋愛小説だった。でもよくある話ではなく、お互いの事を想い合う二人の心情が丁寧に書かれている。だからなのかすごく印象に残る内容だった。


 特にラストシーンは胸が熱くなるものがあった。主人公が告白しようとするけど結局できなくて終わる。いや敢えて告白しないようにもとれる。でも最後は幸せそうに終わる。確かにこれは面白いかも。


 みんなが読み終わって感想を言っている。人の感じ方は色々あるから勉強になるよね。すると衣吹ちゃんが話す。


「でも私はこの物語には続きがあると思っています。咲良はきっと勇気を出して告白したんじゃないかなって。もし振られたとしてもきっとこの二人は幸せになれる。」


「えっ?そうなの?なんでそう思うの水瀬さん?」


「それはね。きっと咲良も香奈恵もお互いに同じ気持ちでいるからだよ。相手の事が大好きだけど自分の思いを伝えられない。女の子同士の恋愛感情。相手に迷惑をかけたくないって思ってるんだと思う。でも本当は伝えたいんだよ。でも言えない。そんな葛藤が伝わってくるような気がするの。それでもこの物語はハッピーエンドで終わる。だってこの二人が選んだ結末は幸せな未来しかないから!……あっ」


 凄い熱く語った衣吹ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くして俯く。


「素晴らしいわね水瀬さん。すごくいい考察だわ。……まるで感情移入しているみたいにね?」


 結愛先パイは満足げに微笑む。そっか。この物語には続きがあったのか……。確かに言われてみると納得できる。衣吹ちゃんはやっぱり頭がいいな。

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