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12. 次の演目は?

12. 次の演目は?




 あたしは眠たい目をこすりながら、朝食の準備をしていた。昨日のお礼として作ることにしたのだ。トーストとサラダとハムエッグを作ることにする。礼儀は大切だからさ。勝手に人の家のキッチン使うの?とか言うのはなしだ。


 トースターにパンを突っ込み、その間にフライパンでハムを焼く。そして皿やコップを出していると、寝室から物音がした。どうやら小鳥遊先パイが起きたらしい。


 フライパンに卵を落として蓋をする。後は待つだけだな。そう思ってると、後ろから声をかけられた。振り返ってみると、そこにはパジャマ姿の小鳥遊先パイが立っていた。


 あー……なんか気まずいぞこれ。そんなことを思っていると、小鳥遊先パイが言った。その一言だけであたしの顔は真っ赤になった。


「おはよう凛花。ふふっ。まるで同棲してるカップルみたいね?私たち。」


「それを言うなら同居ですよ!?それ間違ってますから!?」


「なら本当に同居しちゃう?」


「え?えっと……」


「ふふ。それ焦げるわよ?」


 あたしは急いで火を消す。朝っぱらから心臓に悪いことを言わないでほしい……。すると小鳥遊先パイがあたしに向かってこう言ってきた。


「今日もよろしくね、私のお嫁さん?」


 それからあたしたちは朝食を食べていた。その間、ずっとドキドキしていたのは内緒だ。そのあと準備をして学校に向かう。いつもとは違う道、横には小鳥遊先パイ。


 二人で歩いている間、あたしたちの会話はない。というか緊張しまくりだった。教室につき大きなため息を吐くと横の席の水瀬さんが話かけてくる。


「どうしたの凛花ちゃん?元気ないよ?」


「いやさぁ……今日は小鳥遊先パイと一緒に登校してきたから。少し気疲れしたなって。」


「凛花ちゃん。部活の先輩と仲が良いんだね。」


 水瀬さんの質問にあたしは答えることができなかった。なぜなら、端から見れば小鳥遊先パイとの関係は先輩後輩に見えるかもしれないけど……。少し違うからだ。でもそのことを話すわけにはいかない。だからあたしは話題を変えた。




 今日の授業は全て終わり放課後となった。部活に行く前にトイレに行っておくことにしよう。あたしは教室を出てすぐ左にある女子トイレに入る。鏡の前で髪を直す。うん!完璧だ。


 小説演劇同好会の部室に行くと、今日は小鳥遊先パイの姿がない。


「あれ?小鳥遊先パイ、まだ来てないんだ……」


 少し悲しいような寂しいようなよく分からない感情になる。とりあえず昨日買った【青い春の風】でも読んで待とうかな。あたしは小説を読むことにした。


【青い春の風:あらすじ】

 主人公の女生徒・真野夏海は文芸部の部長である。彼女は部員であり親友でもある桐山萌に恋心を抱いているのだがなかなか想いを伝えることができずにいた。しかし一緒にいるうちに少しずつ心を開いていく。そしてある日、二人は恋に落ちる。だが、それは許されない恋。そして二人の関係は次の春までの約束……。


 うわ。内容めちゃくちゃ切ないんですけど!?早く読みたいんだけど!!そしてあらすじを読み終わった時、突然勢い良く部室の扉が開かれ、目の前にいたのは息を切らした小鳥遊先パイだった。


「ごめんなさい!待たせたかしら?」


「どうしたんですか!?そんなに息を切らして?走ってきたんですか?」


「だって……あなたがいなかったら嫌じゃない。部活の時間でしかあなたと一緒にいれないんだから。」


 この人はずるい。そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうし、勘違いしちゃうじゃん!ふと小鳥遊先パイを見ると一冊の小説を持っていた。それはあの【青い春の風】だった。


「あれ?もしかしてその小説を買いに行ってたんですか?」


「えぇ。まぁそうなるわね。」


「まだやるって言ってませんけどあたし?」


「買ってきちゃったし。この【青い春の風】を次の演目にしましょうか。決定ね。」


 ほぼ強制じゃん……。でも……あたしのために急いで走って戻ってくる小鳥遊先パイを見て、悪くないかもって思ってしまう自分がいた。


「分かりましたよ。でもこの前みたいな小説の内容にないのは禁止ですからね?」


「そんなことあったかしら?」


 あったよ!あたしがどんな目にあったと思ってんの!?そう言いたかったが言えるはずもなくあたしはため息をつくだけだった。


 こうして次の演目は【青い春の風】に決まったのだった。

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