9. そう言えば知らない
小説【日向に咲き誇る】を演じた翌日。あたしは今教室の机に伏せている。
あたしは何て事をしてしまったんだ!あんなに簡単に自分のファーストキスを……。演技とはいえ、しかも相手は小鳥遊先パイ。女性相手だし!濃厚なディープキスだったし!思い出すだけで恥ずかしくて死にそう!
でも……小鳥遊先パイの唇柔らかかったな。それに何でだろう? 嫌じゃなかった。むしろ心地よかった気がする。って!何言ってんだあたし!?あぁもうダメだ。うぅ……。恥ずかしいよぉ。でも……。またしたいかも……。ってだから何を考えてるんだよ!あたしは!そんな事を考えながら悶えていたら突然肩を叩かれた。
「おーい凛花。次移動教室だよ?」
「サキちゃん。あっそうか準備しないと」
サキちゃんとはクラスメートの友達で親友である。彼女はいつも優しくて頼りになる存在だ。この学園に入学してから春菜ちゃんと共に初めてできた友達でもある。
「何かあったの?」
「えっ!?どうして?」
「だって凛花がぼけ~っとしながら百面相してたからさ。何か悩みごとかなと思って」
どうやらあたしは表情に出やすいタイプらしい。気をつけよう。
「大丈夫。何でも無いよ」
「本当に?ならいいんだけど……」
「それより早く行こっか」
そう言うとあたしたちは移動教室の準備をする為に席を離れた。そしてその日の授業も終わり放課後になった。するとサキちゃんがやってくる。
「ねぇねぇ凛花。今日この後予定ある?」
「今日は部活もないし、特にないけどどうかしたの?」
「良かった。実はね駅前に新しいカフェができたみたいなんだけど、一緒に行こうと思って誘ったんだ」
「へぇ~そうなんだ。うん行く!」
駅前にあるカフェには前から行ってみたかったのだ。早速向かう事にしよう。あたしはこういうのに憧れてたんだ!こうしてサキちゃんと一緒に駅へと向かう事になった。道中色々な話をしながら歩いていたのだが、サキちゃんがふとある疑問をあたしに言ってくる。
「ねぇ凛花。そういえば今日小鳥遊先パイ見なかったけど何か知ってる?」
「ん?知らないけど……。どうして?」
「最近よく見かけるからさ。まぁ同じ学校なんだから当たり前かもしれないけど」
今小鳥遊先パイの名前を出さないでサキちゃん……。昨日のこと思い出しちゃうからさ……。
そしてカフェに着き、注文をしてあたしとサキちゃんは向かい合う形で座っている。メニューは紅茶とチーズケーキにした。とても美味しいみたいだから楽しみだ。
暫くすると店員さんが来て注文していたものを持ってきてくれた。早速食べてみると確かに美味しかった。あたしは思わず感動してしまった。それを見たサキちゃんが笑顔で言う。
「良かった元気出たみたいで。」
「え?」
「なんか今日の凛花様子がおかしかったからさ。朝会った時もどこか上の空だったし。やっぱり小鳥遊先パイの事が原因なのかなって思って」
「そっそれは……」
「別に言いたくないなら言わなくて良いよ。ただ心配なだけ。凛花の事は私が守ってあげるから安心して親友じゃん。春菜もね。」
サキちゃんの言葉を聞いて胸が熱くなる。嬉しくて涙が出そうになる。きっと今のあたしの顔は真っ赤になっているだろう。こんなにも優しい親友を持てて幸せ者だと思う。