8. Story.1 ~【日向に咲き誇る】~④
【日向に咲き誇る】
心地の良い朝。窓から光が差し込み、その光に照らされて眠る私の愛しい人。私はそっと彼女の頬に触れる。すべすべで柔らかな肌はまるでシルクのように触り心地のいいもの。そしてその感触が気持ちよかったのか彼女はゆっくりと目を開けた。まだ眠たそうにとろんとした目で私を見つめる。
そんな彼女を見て思わず笑みを浮かべてしまう。いつもはしっかり者で、クールな表情をしていることが多い彼女がこんなにも無防備な姿を見せてくれることが嬉しいから。だからついつい見入ってしまう。……本当に可愛い。
すると私の視線に気付いたのか、彼女は恥ずかしそうにして布団を頭まで被った。でも耳元が真っ赤になっているから丸わかりよ? 本当にこの子は……。
そういうところがたまらなく好き。普段しっかりしている分、こういうギャップを見せられるとぐっとくるものがあるわね。……ああもうっ! どうしてこうも可愛らしいのかしら!? 私は布団ごと抱きしめてぐりぐりと頭を撫で回す。彼女はやめてと言って嫌がっているけど本気じゃないことはわかってるし。むしろ嬉しそうな顔してるもの。
まったくもう……ほんと可愛いんだから! このままぎゅ~ってしたくなる衝動を抑えて布団を剥いであげる。そのまま顔を近づけると慌てて手でガードしてきた。残念。せっかくキスしようと思ったのに。
でもまぁ仕方ないか、初めて会ったあの日に比べれば……。
-小説実演-
あたしは目を覚ます。えっと……。あたしは小説を演じていく。
「ここはどこなの?って誰!?なんで私裸なの?それにこの赤いの…キスマーク!?」
あー寒い。早く服を着たいんだけど…恥ずかしいしさ。というか…本当に私の身体にキスマークつけてるんですけど小鳥遊先パイ。しかも結構たくさんあるし。見えちゃうじゃん。どうしてくれんのさ。
しかし、起きてからずっと小鳥遊先パイはあたしのことをガン見してくる。なんかちょっと怖い。あーもうっ! わかったよ。やるよ。やりゃあいいんでしょうが! あたしは布団から出て服を探す。あった。よし。着替え完了。じゃあさっきの続きをやろうか。
「こほん。あなたは誰なの?」
「ひどい。私の初めてを奪ったのに覚えてないの?」
「初めて?私があなたの初めてを?」
あたしは小説通りに事を進めていく。小鳥遊先パイは声がいつもより高いし可愛くて優しそうな態度……マジで【日向に咲き誇る】のヒロインのマリアに成りきってるんだけどさ……。えっと……。まぁいっか。とりあえず演じよう。
そしてしばらく小説通りに事を進めていった。外での買い物やデートも終わり家に戻ってくる。意外に演じてるのも悪くないかも。なんか楽しいし。小鳥遊先パイは役柄なのかおとなしいし優しいし。
そしていよいよこの小説の問題のシーンがやってくる。
「ねぇ。もう離さないでね凛花。好きだよ。」
「うっ。……。」
「凛花?」
「わわ……わた……私も好きよマリア!」
もうここまで来たらやるしかない!さよならあたしのファーストキス……。
あたしは小鳥遊先パイに近づき、顎に手を添えて口づけをする。舌を入れて絡め合う濃厚なもの。唇が離れると唾液が糸を引いた。それを指先で拭いながら彼女の耳元で囁く。
「その目。また欲しくなっちゃった?マリア」
「うん……」
それからしばらく布団でお互いを求め合った。というのが小説の内容。もちろんこれは演技だからなにもしていない。ただ布団を被っただけ。だってこれ小説だし。…………。……ふぅ。これで終わりかな?
「ねぇ、もう一度だけしたい」
えぇ……。何言ってんの小鳥遊先パイ。そんなセリフないですよ!?小鳥遊先パイは私を押し倒してくる。
「ちょっ。待ってください!小鳥遊先パイ!?それは小説には書いてませんよね!?」
「大丈夫。これは私と凛花の【日向に咲き誇る】だから。」
「あっ……ちょ……先パイ……」
小鳥遊先パイは私の服を剥ぎ取っていく。あぁ……ヤバい。完全にスイッチ入っちゃってるよこの先パイ。結局私は抵抗できずにされるがままになってしまう。そして小鳥遊先パイの綺麗な細い指先が私の下腹部を這うように上下になぞり始める。それは初めての感覚でとても気持ちよくて思わず声が出てしまう。
「あぁん!はぁダメ……お願い……」
そんな時だった。ピロロロ……。スマホのアラームが鳴り始めた。小鳥遊先パイはその音を聞いて動きを止める。あ……危なかった。もしこのまま続けてたら大変なことになってた……。
「あら残念。時間切れだわ。」
「はぁはぁ。終わり……ですか?」
「時間は時間だから。それとも続きしたくなっちゃった?凛花?とても気持ち良さそうなイヤらしい声出てたわよ?」
小鳥遊先パイがニヤリと笑みを浮かべる。冗談じゃない。これ以上やったら変になりそう。それに小鳥遊先パイとならヤってもいいかもとか一瞬思ったけどやっぱり無理!恥ずかしいし。
でもこんな機会もうないだろうし、もうちょっとこの小説を体験してみたいなーなんて思ってたりもするわけで……。
いやいや、違う。あたしは何を考えてんだ。とにかく今は小説の真似事をしてみただけだし。別にあたしは……。
あたしは頭を振る。でも小鳥遊先パイはそんなあたしを見てクスッと笑う。もしかしてバレてる!? やばいやばい。この人にだけは絶対に知られたくない。
あたしは慌てて小説を閉じる。すると小鳥遊先パイはあたしの頭を撫でてきた。あれ?なんかいつもより優しい気がするんだけど気のせいかな。
それにしてもさっきのは本当に凄かった。あたしがまさかあんなことをされる側になるなんて思わなかったし。正直言うとちょっと興奮しちゃったのは内緒だけどね。
「凛花。私どうだったかしら?ちゃんとマリアになれてたかしら?」
「え?あっはい。私も小鳥遊先パイのおかげで日咲凛花になれたと思いますし。」
「なら良かったわ。捨てたものじゃないでしょ?小説の恋愛もね?」
小鳥遊先パイはウィンクをして微笑む。あたしも釣られて笑顔になった。少しずつあたしは恋愛小説もいいかもしれないと思い始めるのであった。