6. Story.1 ~【日向に咲き誇る】~②
今日は木曜日の放課後。あたしは部室と呼んでいいか分からないけど、小説演劇同好会の教室にいる。例の【日向に咲き誇る】を演じる(?)まで今日を入れると残り3日だ。あたしはその小説を何回も読み直している。ふと小鳥遊先パイがあたしに尋ねてくる。
「そう言えば凛花。あなた自分でやったの?」
「やるって何をですか!?」
「その反応は、まだなの?本当に私が奪ってもいいのね?まぁ優しくはしてあげるけど。」
小鳥遊先パイはニヤリと笑う。その表情を見てあたしは怖くなって後ずさりをする。しかし、すぐに壁に追い込まれてしまう。そして小鳥遊先パイの顔が近づいてくる。
「ふふっ。あなたって柔らかそうな唇してるわね?少しフライングしちゃいましょうか?」
「あの先パ……。」
小鳥遊先パイの手が伸びてあたしの顎を持ち上げる。そのまま口づけされるのかと思ったら……
コンコンッ! 扉の方からノック音が聞こえた。小鳥遊先パイは少し残念そうに離れてドアを開ける。もうすぐ下校の時間の知らせを先生がしに来てくれた。
あたしは心臓がドキドキする。もし先生が来なかったら……。違う違う。あたしも小鳥遊先パイも女の子なんだし!それにキスなんてそんな簡単にしないよね!?
「凛花。顔赤いわよ?もしかして期待してたかしら?」
「そんなわけ……」
「あら?そうなの?それは残念。まぁお楽しみはとっておこうかしらね?」
小鳥遊先パイはあたしのことをからかいながら帰る準備を始めた。やっぱりこの人は苦手かもしれない。
次の日の朝。昨日小鳥遊先パイに言われたことが頭から離れない。だってキスされるかもとか思ったんだもん。仕方がないじゃん!あたしは誰に対して言い訳をしているんだろうか。
学校に着いて、いつも通り自分の席に座っていると隣の席の水瀬さんが話しかけてきた。
「おはよう凛花ちゃん。何かあったの?なんか元気なさそうだよ?」
水瀬さんは心配そうに見つめてくる。あたしは思わず目を逸らす。この子は水瀬衣吹という子で、明るくて可愛くて、男子からも女子からも人気がある。でもなぜか隣の席だからかあたしによく絡んでくるのだ。だからと言って別に嫌ではないんだけど。
「ううん。なんでもないよ!」
本当は小鳥遊先パイとの件で悩んでいるんだけど、言えるはずもない。でもこのままだと余計に心配させちゃうよね……。よし!ここは自分自身に嘘をつくしかない! 心の中で自分に言い聞かせると決心した。
それからというもの、なるべく考えないようにしていたけど、ふとした時に思い出してしまう。授業中もボーっとしてしまい先生に注意されてしまう始末だ。
憂鬱だが、時間は無情にもすぎ、放課後部活動の時間がやってくる。部室に行かない選択肢はないのだが、足取りはとても重い。気がつくと部室の前までやって来ていた。あたしは大きく深呼吸をして扉に手をかける。
ガラガラッ! 勢いよく開けた扉の先には、小鳥遊先パイがいつものようにいる。
あたしは挨拶をする。……あれ? あたしの声は震えている。なんだろうこの感じ……。緊張しているのかな?それとも恐怖を感じているのか……。とにかく今までに経験したことの無い感覚だ。
「凛花。明日のことなんだけど。親御さんには話してあるの?」
「え?ああ…小鳥遊先パイの家に泊まることですか?もちろん話してありますよ。」
「そう。それならいいけど。私も準備しないといけないし、色々買うものもあるわ。」
小鳥遊先パイは明日の事を淡々と話す。あたしはそれを聞いているだけ。何も言葉が出てこなかった。