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5. Story.1 ~【日向に咲き誇る】~①

5. Story.1 ~【日向に咲き誇る】~①




 あたしは寝不足なのか朝起きても気分は晴れない。学校に着いてもそれは変わらなかった。授業中、昨日あれから読んだ【日向に咲き誇る】の内容が頭から離れない。


 もしかして……本当に、小鳥遊先パイとそういう事になるのかな? そう思った瞬間に顔が熱くなっていく。胸の奥がドキドキする。やばいよぉ……。どうしよう。今までそんな風に考えたことなかったから全然分からないよ。


 お昼休みになって、あたしはクラスメイトと食堂で食事をとることになった。頭の中が【日向に咲き誇る】の事でいっぱいで訳が分からなくなってしまっている。


「凛花。さっきから何をそわそわしてるの?」


「というか授業中もおかしかったよね?凛花ちゃんは?」


 向かい側に座るクラスメイトである麻宮サキちゃんと日下部春菜ちゃんが話しかけてきた。サキちゃんと春菜ちゃんはあたしと同じ一般受験の女の子。だから話しやすく、すぐ友達になれた。


「えっ!?」


 思わず声が出てしまった。


「いや、だってなんか落ち着きがないっていうか。今日はいつもより食べる量少ないしさ?」


「うんうん!いつもなら、ご飯をおかわりするくらい食べてるもんね!」


 二人とも鋭いなぁ。あたしってば分かりやすいのかも。二人はあたしの事をよく見ている。そして、何かある事に気付いてしまうのだ。だから隠し事は出来ない。でも、本当の事も言えない。言えるわけないじゃない!


「あー。その、ちょっと悩みがあって……」


「そうなんだ?相談に乗るよ?」


「私たちじゃ頼りないかもだけど、話してみてよ」


 二人に相談したい気持ちはあるけれど、内容が内容だけに言いづらい。ここは遠回しに聞くしかないよね。


「部活の事なんだけどさ……。」


「部活?小説演劇同好会だっけ?確か。」


「演劇部とは違うんだよね?それがどうかしたの?もしかして先パイにイジメられてるとか!?」


 二人の反応を見る限りだと大丈夫そうだ。心配してくれるのは嬉しいけど、この手の話になると春菜ちゃんは少し暴走気味になる。


 でも、今はその方が助かるかも。それにしても先パイにいじめられるってどんなシチュエーションなんだろう。想像つかないなぁ。


「いや違うんだけどさ…その…」


 あたしが言葉を詰まらせているとそこに小鳥遊先パイが食堂にやってくる。


「あら?ご機嫌よう凛花。仲良くご友人とランチ?羨ましいわね。初めまして、私は小鳥遊結愛。凛花の部活動の先パイなの。お見知りおきを。」


 小鳥遊先パイは軽く微笑むとそれを見ていたサキちゃんと春菜ちゃんは固まっていた。無理もないと思う。だって、あんな美人さんに突然話しかけられたら誰だって驚くもの。


「こ、こちらこそはじめまして。麻宮サキです。よろしくお願いします。」


「同じく日下部春菜といいます。」


 サキちゃんと春菜ちゃんは緊張している様子だった。サキちゃんはなんとか返事をしたみたいだけど、春菜ちゃんはまだ完全に硬直している。


「サキちゃん、春菜ちゃん。大丈夫だよ。悪い人じゃないから。」


「そ、そうなんだ……。」


「わ、分かったよ。凛花ちゃんが言うなら信じる。」


「とても可愛らしいご友人ね凛花。邪魔しては悪いからこれで失礼するわね?また放課後部室で。」


 そう言って小鳥遊先パイは去っていった。その後ろ姿を見つめながらサキちゃんと春菜ちゃんは呟いた。


「あれが凛花の部活動の先輩なんだぁ。めっちゃ綺麗な人だったねぇ。」


「本当。というか凛花ちゃん部活動の何を悩んでいるの?あんなに綺麗な先輩がいて、イジメられてないんだよね?」


 実はさ私の貞操が失われるかもしれないんだ。とか言えないよ!そんな事言ったら絶対に変な誤解されちゃう!その時、あたしの脳裏に小鳥遊先パイの顔とある言葉が浮かび上がった。それはあの小説【日向に咲き誇る】のヒロインのマリアが主人公に放つ一言。


『貴女は私の恋人になったのだから、二人だけの秘密を話さないでね?「秘密」は誰にも知られてはいけないのだから』


「ううん。なんでもない。マリアとの約束だからさ。」


「「マリア?」」


 もうダメだ!あたしの頭の中は【日向に咲き誇る】の主人公の日咲凛花になってる!!このままじゃ本当に小鳥遊先パイにヤられてしまう!というか、あたしの処女奪われるの!? どうしよう!あたしの頭がおかしくなりそうだ! あたしは一人で悶々として、午後の授業中も上の空で先生に注意された。


 放課後になり、サキちゃんと春菜ちゃんと別れてあたしはすぐに帰宅した。家に着く頃には夕方になっていた。


 あたしは自分の部屋に入るとベッドに倒れ込むように寝転ぶ。そして枕元に置いてある小説を手に取った。表紙には制服を着た女の子のイラストが描かれている。


【日向に咲き誇る】の表紙を眺めながらあたしはため息をついた。この小説を読んでいると自分の気持ちが分からなくなる。今まで、こんな風に悩んだことなんてなかったのに。


 小鳥遊先パイと出会ってからはずっと振り回されてばかり。でも、それが嫌じゃない自分がいたりもする。これが恋ってことなのかなぁ?でも、あたしは恋愛経験がないから分からないよ。誰か教えて欲しい。この気持ちの正体を!


 そして、あたしは勢いよく布団を被りそのまま夕飯の時間までじっと耐えているのだった。

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