2. 小説と現実
春の陽気に桜の花びらが舞う中、あたしは新しい制服に身を包んで学校へと向かっていた。今日からあたしもこの花咲学園の生徒である。
あたしの名前は新堂凛花。花の咲く季節に生まれたから、この名前をつけたんだって。親が言うには、小さい頃から可愛い顔立ちだったらしいけど……まあそれはいいとして。
あたしが通っている学校は、いわゆる名門校と呼ばれるところだ。昔から続く伝統のある学校で、成績優秀かつ品行方正であることが求められている。この学園に通う生徒は皆、お金持ちのお坊ちゃんとお嬢さんばかり。そんな人たちと肩を並べて授業を受けるなんて、なんだか緊張する。
「家からめっちゃ近いからいいんだけどさ。というかその理由で選んだんだし。」
あたしみたいな普通の女の子にとっては場違いすぎる気がするんだけど……。まあいいか! 入学式が終わったらすぐに帰ろうっと! ……と思っていたのだが、この学園では必ず部活に入らなくては行けない決まりらしい。
「入学案内読んでおけば良かった……。」
あたしはとりあえず校舎を歩きながら、部活動一覧表を探していた。あっ。あたしは女子だからマネージャーでもいいのか。んー。何部があるかなぁ~。その時見たことも聞いたこともないような部活を見つける。
「小説同好会?これも部活なのかな?」
なんか面白そうだよね。一応あたしは本読むの好きだし。ちょっと覗いてみようかな。あたしはその小説同好会の扉を開いた。するとそこには、綺麗な黒髪の女性がいた。
その女性はとても美しい人だった。思わず見惚れてしまう程に。でも、どこか寂しげな雰囲気も漂わせていた。まるで今にも消えてしまいそうなくらいに。彼女は窓の外を見つめながらこう言った。
「やっと見つけた。私の希望の星。」
えっ?何のことだろう。あたしは彼女の言っている意味がよく分からなかった。
「あなたはきっとあの人の運命を変えてくれるはず。だって……」
彼女がこちらを振り向くと同時に、チャイムが鳴る。ごめんなさいね。と言って彼女は奥の部屋に入っていった。一体なんだったんだろう?とりあえずその日は部活を決めずにあたしはそのまま帰ることにした。
次の日、あたしは昨日の女性が気になって仕方がなかった。また会えるといいんだけど……。と思いながら歩いていると、誰かにぶつかる。相手はよろけて倒れそうになったが、なんとか踏みとどまったようだ。
「あのごめんなさい!」
「いえ。急いでるからごめんなさいね」
あれ?この人って確か昨日会った…… 彼女に声をかける前に、彼女はそのまま行ってしまった。昨日はわからなかったけど、あのリボンの色二年生だよね?一つ上の先パイか。
そして放課後。あたしは走って小説同好会に向かう。本当に気になりすぎて仕方がなかった。扉を開けると、やはり昨日と同じ人が座っていた。
「来ると思っていたわ。星の輝きは嘘はつかないもの。」
「えっ?星?」
あたしが首を傾げると、彼女は微笑む。そして立ち上がり、あたしの手を握る。
「へ?あの……?」
「ずっと待っていたわ。あなたの事を。さあ行きましょう。私たちの物語を始めに。」
そして手を引かれるがままに部屋を出る。廊下に出て少し歩くと、そこは屋上だった。あたしは彼女に言われるまま屋上に出る。
「あっあの先パイ?」
「第一部 完。ふーん。なかなかだったわね。あっありがとねあなた。」
なに?どういうこと?わけがわかんないよ。混乱しているあたしに、彼女は笑顔で手を差し伸べる。
「入部希望者でいいのかしら?私は小鳥遊結愛。あなたは?」
「あっ新堂凛花です。まぁ一応入部希望です。」
「本当に!?あなたは私と同じ志を持つ同志なのね!?素晴らしいわ!」
すごいテンションなんですけど……。まぁ悪い人じゃなさそうだし、とりあえずいいか。すると小鳥遊先パイが私に話す。
「あなた好きな小説は?」
「恋愛物以外ならなんでも好きですよ。あたしは小説の中の恋愛はあり得ないと思っているので……。」
あたしのその発言を聞くと小鳥遊先パイは怪訝そうな顔をしてこう言い放つ。
「はぁ?ありえない?なんで?」
「いや、だって恋愛物なんて結局作者の都合で作られてるだけじゃないですか。」
そう答えると小鳥遊先パイはさらに眉間にシワを寄せた。えぇ……なんか変なこと言ったかな……あたし……?すると小鳥遊先パイはため息をついて口を開く。そして衝撃的な発言をする。
「ふーん。あなた。誰かを好きになったことないんでしょ?もしかして処女?」
「そうですけど何か問題でも?」
なんかすごく失礼なことを言われた気がしたので少しムッとして聞き返す。すると小鳥遊先パイはまたも大きなため息をつく。なんだこの人……。
「まぁいいわ。とりあえずまずはやってもらわないとね」
「やる?なにをですか?」
あたしがそう聞くと、小鳥遊先パイは微笑みながら言った。
「もちろん『小説』をよ。ここは『小説演劇同好会』なんだから」
その言葉はこれからのあたしの学園生活をも巻き込む言葉だったのだ。