目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第10話


「周りの友達がね、ネットで知り合った人と付き合ってたり、彼氏なんだ~って言ってたりしたの。でも、会ったこともない人なんだよ?信じられる?」

と大袈裟に肩を竦める葵が可愛い。


「俺の周りにもいたよ。俺にはその感覚……ちょっとわかんねーなって思った」


「だよね。ネットなんていくらでも嘘……つけるしね……」

葵はそこで言葉を切った。……どうしたんだ?


「確かに。性別だって偽れるしな」

沈黙になるのが怖くなった俺は、急いで言葉を繋いだ。


「……そーだよね!女の子と思ってやり取りしてた人が実は男でしたー!とかよく聞くもん」

葵は急に明るい声でそう言った。さっきの重たい空気を取っ払うかの様に。


「俺は直接顔を見て、その人と話してその人に触れて……それから関係を始めたいって思うよ」

俺は葵の目を見て、素直に自分の気持ちを話す。


……葵は自分の事を言われているなんて思いもよらないかもしれないけど、今の俺にはこれが精一杯だ。


「うん……。私もそう思う。好きな人には直接……触れたいもんね」

葵はそう言うと、隣に座る俺の手に、そっと自分の手を乗せた。



心臓がバクバクと音を立てる。うるさ過ぎて隣の葵に聞こえていないか心配になる。


お、俺も握り返した方が良い?いや、それは調子に乗り過ぎか?

さっきの言葉って告白……?いやいや、それも調子に乗り過ぎだ。

俺の頭の中は色んな考えがぐるぐるしてて、頭の中でバターが出来そうだ。

『今だ!言っちゃえよ!ここで言わなくてどうする?』と言う俺Aと『いいか、葵はこんな可愛いいんだ。誰にでも色目をつかう……なんて事はないと思うけど、こうして調子に乗って告白して撃沈する男なんて山程いるに決まってる。落ち着け!もっとお互いを知ってからでも遅くない』と言う俺Bが戦っている。

そんな風に考えていると、


葵は、


「うわ~ここのフレーズ好き!!」

と手を叩いた。そう……俺の手から彼女の手は離れてしまった……なんなら薄っすら寒く感じる。


俺Aが言っている……『意気地なしに恋は無理』だと。

俺は後悔を悟られない様に


「だろ?俺もここ好きなんだ」

と葵に話を合わせた。

ただ……この歌、失恋の歌だったな……と思いながら。





その日、俺はばあちゃん家に戻っても、悶々としていた。

俺の手の甲には葵の手の感触が残っている。


あれは……どういう意味だったんだろう。葵に嫌われている……とは思っていない。

人魚かもしれないと思っていたが、今日の話から察するに、普通の女子高生だ。

彼女が時折見せる寂しげな表情は、何なんだろう。

知りたいと思う気持ちが日に日に大きくなっていく。この気持ちはいつの日か大きくなりすぎて、爆発してしまうのではないだろうか?


俺は今まで、意外と他人に無関心だな……と自分でも思ってきた。正直……弟にもあまり関心はない。母親の愛情をとられたから?いや……そんなマザコンだったか?俺。


だけど、今の俺はどうだ?

たった十数日前に会ったばかりの葵の事ばかり考えている。……これって恋なのか?恋にしては……胸が痛すぎる。もっと、恋って……ハッピーなものだと思ってた。


葵も言っていたように、周りはもっと手軽に恋を楽しんでいるじゃないか。見知らぬ誰かにうつつをぬかしながら、他の誰かともコンタクトを取っていたりするじゃないか。もっと……手軽に……。だけど俺にはそれがとてつもなく難しいことに感じていた。



それからも俺は勇気がでないまま、そしてこの前の葵の行動の意味も尋ねる事が出来ないまま、毎日、同じ日を過ごしていた。


ばあちゃん家に来てもう二週間が経つ。夜は悶々として眠れないので、課題は捗っているが、目の下の隈がヤバい。


「希、ちゃんと寝てる?隈、酷いよ?」

と俺の顔を覗き込む葵に心の中で(誰のせいだと思ってるんだよ!)とちょっと毒づいてみる。


「学校の課題が多いんだ」

心とは裏腹な言葉が口からスラスラと出てくる。これが本音と建前ってやつか……。


「進学校って言ってたもんね。じゃあ……こうして私と会ってるのって……迷惑?本当はそんな時間ないんじゃない?」


不味い!これって『もう会うのやめようか?』の流れじゃないか?!


「いや!もう終わった!課題ぜーんぶ終了!!」

と慌てて言えば、葵は少しホッとした様に微笑んだ。

……これって、葵も少しは俺と会いたいって思ってくれてるって事……だよな?


「そう?なら良いんだけど……。無理はしないでね。身体壊しちゃったら大変だし」


「俺、めちゃくちゃ身体、丈夫なんだよね」

そう言った俺に、


「元気だからって油断しちゃダメだよ。人生、何が起こるかわかんないんだから」

と葵は少し遠くを見ながらそう言った。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?