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1.ここで言うワンチャンの意味を深く考えたら負けなのである

「んん…っ、エドっ、エドぉっ、今度は何の魔法薬を飲ませたの…っ」

「す、すみません、その、媚薬……です」

「は?」


 ど、どうしてこうなった!?



 ──それは事件の数時間前の事だった。


「ルール、今日が何の日か覚えていますか?」

「………えっ! もしかして依頼されてた魔法薬の納品日今日だった?!」


 しまった、どれを忘れてるんだと焦った私の横でわざとらしく盛大なため息を吐いたのは今年18歳になる弟子のエドワードである。


「完成した魔法薬は全て納品済みですし、未完成分の納期にはまだ余裕があります」

「あら、さすがエド!」


 ありがとうと笑ったが、エドの仏頂面は直らないので渋々今日という日付について考えてみるが。


「……エドの誕生日にはまだ二ヶ月あるわよ?」

「ルールの誕生日は過ぎましたね」


 全然心当たりがない。


「ヒントとかないかしら」


 仕方なく少しうつむき気味だったエドを下から覗き込みながら様子を伺うが、間髪いれず顔面を掴まれた。

 だから私、あなたの師匠なんですけど?!


 ふがふが言う私に流石に悪いと思ったのか、それともそんな私が面白かったのかはわからないが何故か少し機嫌の直ったエドが珍しく答えをくれた。


「今日は、はじめてルールに魔法薬を飲ませた記念日です」

「……はぁ?」

「そしてこれを見てください」


 トン、と机に置かれたのは紫色をした小さな小瓶。


「………エド、まさか」

「はい。あの時は効きませんでしたが今回こそは効くと思います」

「いえ、効きません。何故なら私が魔女だからです」


 魔女に魔法薬は効かない。

 それはこの世界の常識で、そしてこの優秀すぎる弟子に何度も説明しているのにイマイチ理解してくれない悩みの種でもあった。


 魔法薬は一般流通も多く、魔女や魔法使い達は魔法薬で生計をたてているケースがほとんどなのだが、その魔法薬の理屈を何故か理解してくれず未だに『弟子』というポジションに甘んじている。

 そこさえクリアすれば、エドを立派な魔法使いとしてどこにでも出せる。

 王宮魔法使いにもなれるほどの実力があるとすら思っているのだが………


 はぁ、とため息を吐いた。


「だからね、エド。魔法薬は魔女の私には効かないって何度説明したら理解してくれるの?」

「効かないなら飲んでみてくださいよ」

「効かないから飲む必要ないってば」


 平行線である。


「魔女や魔法使いにも効く魔法薬を作りたいんです、だから効くか試しに飲んでみてください」

「理屈の理論がある以上、それが魔法薬であれば絶対に効かないのよ!というか効くか試したいなら自分で飲めばいいじゃないっ」


 てかそもそもその魔法薬何の薬なの?!

 はじめて飲まされた魔法薬って何だった?!

 毎回毎回変な魔法薬を勝手に飲まされててちょっとトラウマ気味なんだけどっ


「俺に効いたら困るからルールに飲んで欲しいんですよっ」

「そんな怪しいの普通に嫌よっ」


 怖っ!なんか怖っ!!


 エドのとんでも理論にちょっと寒気がして、この薬は絶対飲まないと誓った。

 効く効かないが問題じゃない!なんか怖い!


 慌てて椅子から立ち上がり、ちょっと薬草畑の様子を見てくると家から出ようとしたところを先回りされドアを塞がれる。


「効かないってわかってるんなら、飲んでみてくれてもよくないですか?」


 じりじりと小瓶を持って近付くエドに、なんだか段々追い詰められた私の目に、ふと数日前の朝に飲まされた、マズイ目覚めの薬の入っていた小瓶が飛び込んでくる。

 魔法薬の魔法部分は効かないが薬部分はもちろん効果はあるので、成分がわかっているこちらの方がマシだと思った。


「そ、それは飲まないわ、代わりにこっち飲むからそれはエドが飲みなさいっ」

「えっ?!ちょ!ダメですそれはっ」


 だから、エドの制止を聞かずに一気飲みした。

 成分どころか何の薬かもわからない魔法薬より、マズくても体に害のないこの薬で痛み分けだ、と。


 その判断が、誤りだった。


 ドクッ


「……えっ、え?何、なんだか急に体が熱く……?」

「ルールっ!」


 その場にしゃがみかけた私をエドが両腕で支えてくれる。

 そのエドが触れてる部分に更に熱が集まり呼吸があがった。


 ──目覚めの薬じゃなかったの……?

 先日とは明らかに違う自身の反応に戸惑い、何故かエドにすがるようにしがみついてしまう。

 ──私何をしてるの…?


「んん……っ、エドっ、エドぉっ、今度は何の魔法薬を飲ませたの……っ」


 自然と潤む瞳に戸惑いながらエドに確認すると、青ざめているのか赤面しているのかわからない器用な表情でボソッと伝えられたその魔法薬の名は、なんと。


「す、すみません、その、媚薬……です」

「は?」

「いや、でもそれは飲ませたというかルールが勝手に飲んだというかっ」


 エドが何かを主張しているが唖然とした私の耳には上手く届かない。

 え、いま、媚薬って言った…わよね?

 媚薬?媚薬って、あの?

 惚れ薬と並ぶほど魔法薬界の売上トップクラスにいる、あの媚薬……?


「な、な、なんでそんなものがウチに…っ」

「いや、その、いつかワンチャンとか思ったり思わなかったりして……作ってみました。あの、ゴメンナサイ」


 な、なんてもんを作ってるんだエドぉ?!!

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