「そ、そんな……あんまりです。お父様……セラヴィとの婚約を破棄されただけでなく、他の男性との間に子供が出来たと世間に嘘をつくなんて……絶対に嫌です!」
「黙れっ!」
パンッ!
泣きながら訴えると、さらにチャールズの平手打ちが飛んできた。
「キャアッ!」
アンジェリカの口の中が切れて、一筋の血が顎を伝う。
「うっ……」
アンジェリカの口からぽたりと血が床に垂れ、流石にやり過ぎたと感じたチャールズは掴んでいたアンジェリカの髪から手を離した。
「いいか? セラヴィから婚約破棄されたのは、お前が浮気をして他の男との間に子供をもうけたからだ! 世間にはそう公表する! これはもう決定事項だ! だから今後は勝手に外に出歩くんじゃないぞ? 何しろ今のお前は妊娠していることになっているのだからな! 分かったか!」
「……」
アンジェリカは床に手を付き、俯いたまま返事をしなかった。ただ、肩を震わせるだけだった。
「チッ!」
返事をしないアンジェリカを睨みつけると、次にチャールズはローズマリーに声をかけた。
「行こうか、ローズマリー。お前はお腹に子供がいるのだから、大事にしないといけないからな」
「いえ、お父様。お姉様と話があるので2人きりにさせて貰えますか?」
「何? そうなのか。……まぁ可愛いローズマリーのお願いだから仕方ないか。何か嫌な目にあわされそうになったら遠慮なく大きな声を上げて誰か呼ぶのだぞ? 良いか?」
「ふふ、ありがとうございます。お父様」
「……」
ローズマリーとチャールズの会話をぼんやりと聞くアンジェリカ。
悲しみと絶望のあまり、もうまともな思考能力は無くなっていた。
チャールズが部屋を出て行き、扉が閉じられるとローズマリーは早速床に座り込んでいるアンジェリカに語りかけた。
「お姉様って……本当に可哀想な人ね。あんなにもお父様から嫌われているのですもの」
アンジェリカはローズマリーを見上げるも、その顔は全く同情しているようには見えなかった。むしろ、あざけわらっているようにも見える。
「ローズマリー……どうして……?」
「どうして? それって、もしかしてセラヴィのことを言っているのかしら?」
「……だって彼は私と婚約していたのに……何故、あなたと……」
「私とそういう仲になったのかって聞きたいの?」
「そう……よ……」
弱々しく頷くアンジェリカ。
「はぁ~全く……まだ理由が分からないの? 自分が悪いからじゃない。そんなことだからセラヴィに捨てられたんじゃない」
「私の……何処が悪かったというの?」
「それは、お姉様が男心を全く理解していなかったからよ」
「男心を……?」
それでも分からなかった。
「仕方が無いわね。愚かなお姉様に、セラヴィに代わって教えてあげるわ。そうそう、その前に言っておかなくちゃ」
「今迄セラヴィがお姉様の為に用意したプレゼントは全て私が貰っておいてあげたわ。今日の卒業パーティーの為のドレスもね」
「そ、そんな……」
アンジェリカは目の前が一瞬真っ暗になった――