(ルイスさん……!)
アンジェリカは絶望的な気持ちでルイスが部屋から出て行く姿を見つめていた。
(お願い! 行かないで――!)
必死に心の中で訴えるも、無情に扉は閉ざされる。
――バタン
扉が閉じられ、無情にもチャールズと2人だけにされてしまった。
チャールズは怒りを滲ませ、鋭い目つきでアンジェリカを睨みつけている。
「この大バカ者! お前はセラヴィに一体何てことをしてくれたんだ! どういうつもりなのか答えろ!!」
突然チャールズが大きな声で怒鳴りつけてきた。その怒鳴り声はすさまじく、書斎に置かれた本棚のガラス窓がビリビリ震える程だった。
「ど、どう言うつもりと言われても……どのことでしょうか……?」
パートナーを断った事なのか、大学構内で騒ぎを起こした事なのかアンジェリカには見当がつかなかった。
「とぼけるつもりか!? お前はセラヴィが今日のパーティーの為にプレゼントしたドレスを着もせずに、みすぼらしいドレスあてつけで着て行ったそうではないか! しかもあまつさえ、パートナーを断って帰ってくるなど言語道断! 何故そんな真似をしたのか答えろ!」
「ドレスのことは……わ、分かりません。私は何も受け取っていません。今日着たドレスは離れの使用人の人達が……私の為に、買ってくれた……ドレスです」
恐怖に震えながら、アンジェリカは答えた。
「何? ドレスを受け取っていないだと……嘘を言うな! セラヴィから届いたドレスは私がこの目でローズマリーと確認したのだぞ!」
「え……? ローズマリーと……?」
その言葉に耳を疑う。
「あぁ、そうだ。ローズマリーはもうパーティードレスは着ることが出来ないからな。せめてセラヴィがお前の為に送ってきたドレスを見て見たいというから2人で一緒に見たのだ。その後はメイドにドレスを託し、お前の元に届けるように命じたのだからな!」
「そ、そんな……! ですが、本当に私は受け取っていません!」
「嘘をつくな! メイドは確実にお前に手渡したと言っていた!」
「お父様は、私よりもメイドの方を信じるというのですか!?」
「当然だ! お前は嘘ばかりついているからな! 自分が何故離れに追いやられたのか考えてみろ! ローズマリーを虐めていたからだろう! それすらお前は虐めていないと嘘を貫き通したではないか!」
「お父様……」
アンジェリカの顔から血の気が引いていく。
「それだけではない! 何故セラヴィのパートナーを断った! そのせいで恥をかかされたと電話がかかってきたのだぞ!」
「ですが、私はセラヴィから婚約破棄されたのですよね? そんな相手をパートナーにできるはずありません!」
チャールズが怖かったけれども、アンジェリカは勇気を振り絞って訴えた。
「ああ……その件か。確かにお前とセラヴィは婚約破棄したが、公にはしていない。つまり、世間ではまだ2人は婚約者同士と認識されている。だからパートナーになるのは当然だろう!? それなのに大学構内で騒ぎを起こしおって……! お前たちの婚約破棄は世間に知れるわけにはいかないのが理解できないのか!」
「どうして、世間に知られてはいけないのですか? だって、セラヴィは……」
そこまで言いかけた時。
「お姉様、それは私から説明するわ」
突然書斎の扉が開かれ、シフトドレス姿のローズマリーが現れた――