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5章 15 父からの呼び出し 2

「こちらから屋敷へお入りください」


案内された先は、使用人用の狭い勝手口だった。


「え……? あ、あの……ここから入るの?」


これにはさすがのアンジェリカも驚き、フットマンの顔を見上げた。


「何か?」


無表情のまま問いかけるフットマン。

何か文句でもあるのかと言わんばかりの高圧的な態度にアンジェリカは言いたい言葉を飲み込む。


「いえ。何でも無いわ……」


「そうですか。では参りましょう、旦那様がお待ちですから」


アンジェリカは黙って頷き、相変わらず不愛想なフットマンは無言で前に立つと歩き始めた。


勝手口だけあって、通路には多くの使用人達がいた。彼らはフットマンに連れられて歩くアンジェリカを見て囁きあっている。


「おい、あれ……」


「やだ、アンジェリカ様じゃないの?」


「出入り禁止になったんじゃないの?」


「恐らく旦那様に呼び出されたんじゃないのか? だから勝手口から入って来たんだろう?」


「確かにその通りね」


クスクス笑う使用人達の声が聞こえてくる。誰も伯爵令嬢であるアンジェリカに挨拶する者もいない。


まるで見世物状態のような今の状況がアンジェリカにはいたたまれなかった。

早くこの場から逃れたかったが、かといってチャールズの元に向かうのも怖かった。


出来れば引き返したい。

けれどアンジェリカの願いがこの屋敷で通用するはずも無く、諦めの境地でフットマンについて行くしかなかったのだった。



 フットマンに連れられ、ようやくアンジェリカはチャールズの待つ書斎に辿り着いた。


――コンコン


フットマンがノックをすると扉が開かれ、執事のルイスが現れた。


(ルイスさん!)


久しぶりにルイスの姿を見たアンジェリカは少しだけ希望を持った。


「アンジェリカ様をお連れしました」


「ああ、御苦労だった」


フットマンの言葉にルイスは頷くと、アンジェリカに視線を移す。


「アンジェリカ様、旦那様がお待ちです」


「は、はい」


頷き、中へ入るとチャールズは書斎机の前に座っていた。

その表情は既に怒りに満ちている。


思わず足がすくみそうになったが、ルイスが居てくれることが心強かった。

するとチャールズがおもむろに口を開いた。


「ルイス」


「はい」


「お前は下がっていろ」


その言葉にアンジェリカは絶望的な気持ちになった。


(そんな! ルイスさんがいなくなるなんて……!)


ルイスもアンジェリカの気持ちに気付いたのか、戸惑いの表情を一瞬浮かべる。


「どうした? 何かまだあるのか?」


チャールズが腕組みしながらルイスに尋ねる。


「旦那様、私もこの場に立ち会わせていただけないでしょうか?」


「何だと? 理由を話せ」


「はい。私は旦那様の執事ですので、同席させていただけないかと思いましたので」


淡々と答えるルイス。


「駄目だ! これは親子の話し合いだ。お前は黙って私の言う通りに従えば良いのだ。分かったら出て行け!」


怒鳴りつけられれば、さすがのルイスも従わないわけにはいかない。


「……承知いたしました。ですが、何かありましたらいつでもお呼び下さい」


ルイスはそれだけ告げると一礼し……一瞬アンジェリカに視線を送ると、部屋から去って行った―― 


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