――18時
この日は離れに住む全員が集まっての食事だった。
テーブルには、肉料理や魚介料理などの様々な料理が並べられている。
「さぁ、アンジェリカ様。今日はアンジェリカ様の卒業をお祝いする特別な日です。腕によりをかけて作りました。どうぞお召し上がりください」
エルが笑顔でアンジェリカに話す。
「まぁ……今夜はご馳走ね。どれもとても美味しそうだわ。ありがとう、エル」
アンジェリカを全員が笑顔で見つめる。
「では、アンジェリカ様。早速頂いてみましょう」
「ええ。そうね」
ヘレナが声をかけ、アンジェリカが頷いたとき――
「アンジェリカ様はいらっしゃいますか?」
ダイニングルームに突然40代頃と思しきフットマンが現れ、全員がギョッとした。
「ちょっと! いきなり何なのですか!? ここはアンジェリカ様のお屋敷ですよ! 黙って入って来るなんて失礼にもほどがありますよ!?」
ヘレナが真っ先に反応して文句を言う。
「ヘレナ様の言う通りです。アンジェリカ様に一体何の御用でしょうか?」
大柄のロキが立ち上がり、続いてクルトにエルも立ち上がった。
しかし、フットマンは3人に目をくれることも無く、アンジェリカに視線を向ける。
「アンジェリカ様、旦那様がお呼びです。至急、お越し願います」
「お父様が……?」
震えながら尋ねると、フットマンは表情も変えず「はい」と返事をする。
「わ、分かりました……」
チャールズの言う事は絶対。
もし逆らえば、どうなってしまうか分からない。
アンジェリカは立ち上がるとヘレナが声をかけてきた。
「私も一緒に行きます!」
「それは駄目です」
フットマンが素早く言う。
「駄目? 何故ですか! 私はアンジェリカ様の侍女ですよ? ついて行くのは当然です」
「旦那様はアンジェリカ様お1人で来るようにとおっしゃっております」
「ですが……!」
尚も反論しようとしたとき。
「待って! ヘレナ!」
アンジェリカが止めに入ってきた。
「アンジェリカ様……」
「大丈夫、お父様が私だけを呼んでいるのでしょう? 1人で行ってこれるわ」
「ですが……!」
「私だけを呼んだと言うことは、もしかして卒業のお祝いをしてくれるかもしれないじゃない?」
アンジェリカは離れの使用人全員を見渡す。
そんなことは絶対無いのは分かっていたが、皆を安心させるために嘘をついた。
「わ、分かりました……。では私たちはこちらでアンジェリカ様をお待ちしています」
ヘレナの言葉に、3人は頷く。
「ありがとう、でも30分待っても私が戻って来なかったら、皆で食事をしてね。これは私からのお願いだから」
3人は顔を見合わせ……不本意ではあったが同意することにした。
「分かりました。アンジェリカ様のお言葉通りにいたします」
ヘレナが返事をするとアンジェリカは笑みを浮かべ、次にフットマンに声をかけた。
「では、案内をお願いします」
「はい。では参りましょう」
こうしてアンジェリカは3人に見送られながら、離れを出た。
(お父様が私を屋敷へ呼び出すなんて……でも、どちらにしても良い話であるはずないわ)
果てしなく嫌な予感を抱きながら、アンジェリカは父の待つ屋敷へ向かった――