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5章 14 父からの呼び出し 1

――18時


 この日は離れに住む全員が集まっての食事だった。

テーブルには、肉料理や魚介料理などの様々な料理が並べられている。


「さぁ、アンジェリカ様。今日はアンジェリカ様の卒業をお祝いする特別な日です。腕によりをかけて作りました。どうぞお召し上がりください」


エルが笑顔でアンジェリカに話す。


「まぁ……今夜はご馳走ね。どれもとても美味しそうだわ。ありがとう、エル」


アンジェリカを全員が笑顔で見つめる。


「では、アンジェリカ様。早速頂いてみましょう」


「ええ。そうね」


ヘレナが声をかけ、アンジェリカが頷いたとき――


「アンジェリカ様はいらっしゃいますか?」


ダイニングルームに突然40代頃と思しきフットマンが現れ、全員がギョッとした。


「ちょっと! いきなり何なのですか!? ここはアンジェリカ様のお屋敷ですよ! 黙って入って来るなんて失礼にもほどがありますよ!?」


ヘレナが真っ先に反応して文句を言う。


「ヘレナ様の言う通りです。アンジェリカ様に一体何の御用でしょうか?」


大柄のロキが立ち上がり、続いてクルトにエルも立ち上がった。

しかし、フットマンは3人に目をくれることも無く、アンジェリカに視線を向ける。


「アンジェリカ様、旦那様がお呼びです。至急、お越し願います」


「お父様が……?」


震えながら尋ねると、フットマンは表情も変えず「はい」と返事をする。


「わ、分かりました……」


チャールズの言う事は絶対。

もし逆らえば、どうなってしまうか分からない。


アンジェリカは立ち上がるとヘレナが声をかけてきた。


「私も一緒に行きます!」


「それは駄目です」


フットマンが素早く言う。


「駄目? 何故ですか! 私はアンジェリカ様の侍女ですよ? ついて行くのは当然です」


「旦那様はアンジェリカ様お1人で来るようにとおっしゃっております」


「ですが……!」


尚も反論しようとしたとき。


「待って! ヘレナ!」


アンジェリカが止めに入ってきた。


「アンジェリカ様……」


「大丈夫、お父様が私だけを呼んでいるのでしょう? 1人で行ってこれるわ」


「ですが……!」


「私だけを呼んだと言うことは、もしかして卒業のお祝いをしてくれるかもしれないじゃない?」


アンジェリカは離れの使用人全員を見渡す。

そんなことは絶対無いのは分かっていたが、皆を安心させるために嘘をついた。


「わ、分かりました……。では私たちはこちらでアンジェリカ様をお待ちしています」


ヘレナの言葉に、3人は頷く。


「ありがとう、でも30分待っても私が戻って来なかったら、皆で食事をしてね。これは私からのお願いだから」


3人は顔を見合わせ……不本意ではあったが同意することにした。


「分かりました。アンジェリカ様のお言葉通りにいたします」


ヘレナが返事をするとアンジェリカは笑みを浮かべ、次にフットマンに声をかけた。


「では、案内をお願いします」


「はい。では参りましょう」


こうしてアンジェリカは3人に見送られながら、離れを出た。


(お父様が私を屋敷へ呼び出すなんて……でも、どちらにしても良い話であるはずないわ)


果てしなく嫌な予感を抱きながら、アンジェリカは父の待つ屋敷へ向かった――


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