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5章 11傷心の卒業

「だ、誰だ!?」


セラヴィは抗議する為、振り返った。

するとマントを羽織った騎士が立っていた。帽子を目深に被っており、顔を見ることはできない。


「な、何だよ。お前は……」


突然現れた騎士にセラヴィは後退る。けれど、未だにアンジェリカの手首は握りしめている。


「その女性の手を離せ、嫌がっているだろう?」


騎士は低い声でセラヴィに言う。


「うるさい! 部外者は黙っていろよ! この女は俺の婚約者なんだから!」


「嘘よ! 違うわ!」


必死で叫ぶアンジェリカ。


「何が違うんだよ!」


「元、婚約者でしょう!? 貴方は私と婚約破棄したじゃない!」


「婚約破棄……?」


騎士が口の中で小さく呟く。しかし、その声はセラヴィとアンジェリカの耳には届かない。


「黙ってろよ!」


セラヴィは怒鳴りつけると騎士に向き直った。


「とにかく、関係ない奴は口出しするな!」


「いや、関係なくはないな」


騎士は首を振る。


「何が関係ないんだよ!」


「俺は今日、この学園の警備を任されている。何か問題が起きないように見張るのも仕事だ。女性に乱暴な振舞を行う者を看過することなど出来ない」


その騎士の言葉にアンジェリカは希望を見出した。


(この方なら……私を助けてくれるはず)


そこでアンジェリカは声を上げた。


「お願いです! 助けて!」


「この……っ! 黙ってろって言ってるだろう!?」


カッとなったセラヴィは空いている手を振り上げた。


(叩かれる!)


思わず恐怖でアンジェリカは目を閉じた時。


バキッ!


激しい音が鳴り響き、セラヴィが悲鳴を上げた。


「グアッ!」


その途端、アンジェリカの腕が解放される。


「……?」


恐る恐る目を開けてみると、頬を押さえて地面に倒れこんでいるセラヴィの姿があった。


「セ、セラヴィ!?」


セラヴィの右頬が赤く腫れている。


「くそっ!! お前、俺が誰か分かってるのか!?」


セラヴィの家は伯爵家の中でも名家であり、有名だった。学園長にも顔が利いている。


「あぁ、当然知っている。セラヴィ・ヴァレンシア伯爵だろう?」


騎士は頷き、何故かアンジェリカの方に顔を向ける。


「な、何だと!? 分かっていて……」


文句を言うためにセラヴィは立ち上がり、自分が周囲の注目を浴びていることに気付いた。


「おめでたい卒業パーティーで騒ぎを起こすなんて……」


「自業自得だな」


「あんなに乱暴な人だったのね……」


「あの女性、婚約破棄されて正解よ」


学生たちの非難の目がセラヴィに集中する。

それは人一倍自尊心の強い彼にとっては屈辱的だった。


「く、くそっ! 覚えていろよ! お前のことは忘れないからな!」


そして次にアンジェリカに視線を向ける。


「……」


憎しみを向けた目で睨みつけられ、アンジェリカの肩が跳ねる。


「覚えておけ! 俺が婚約破棄を決めたのは、お前のせいだからな!」


セラヴィは吐き捨てるように言うと、その場を去って行った。


「セラヴィ……」


呆然と去って行く背中を見つめるアンジェリカ。


(どうしてなの? セラヴィ……私が一体何をしたっていうの……?)


そのとき。


「あの、大丈夫ですか?」


突然騎士が尋ねてきた。


「あ……は、はい。大丈夫です。助けて頂き、ありがとうございます」


頭を下げてアンジェリカは礼を述べる。


「怪我はされていませんか?」


「はい、怪我はしておりません」


「なら、良かったです。……すみません。まだ警備の仕事があるのでここから動くことが出来ないのですが、どうぞお気をつけてお帰り下さい」


そして一礼すると騎士は去って行った。


「……帰りましょう」


アンジェリカは正門に向けて再び歩き出した。


こうして心に深い傷を負ったまま……アンジェリカは高校を卒業したのだった――




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