セラヴィは今まで見たことが無いくらい、怒りを露わにしている。
怒りをぶつけられることは父で慣らされてはいるものの、それでもかつて愛していたセラヴィから憎しみを抱かれるのは辛かった。
(どうして……? セラヴィ……)
悲しくて今にも泣きたい気持ちだった。
けれどニーナが居なくなったあの日、もう泣かないと心に決めたアンジェリカは涙をこらえて言い返した。
「本当に何のことだか分からないわ。大体私が離れに追いやられてから、貴方は一度だって訪ねてきてくれたことは無かったじゃない。ニーナに頼んで……メモまで渡したのに……」
「メモ? ああ、あれのことか。あれならローズマリーに見せたよ。そうしたら彼女に泣かれてしまったよ」
フッと冷めた笑いをするセラヴィ。
「そ、そんな……!」
セラヴィの態度と、メモをローズマリーに見せたという事実はアンジェリカの心に衝撃を与えた。
「ど、どういうことなの!? メモをローズマリーに見せたって……それにどうしてあの子が泣くの!? むしろ、泣きたいのは……」
そこまで言って、アンジェリカは口を閉ざした。
何故ならセラヴィが冷たい眼差しを自分に向けているからだ。
「ローズマリーのことを悪く言うのはよせ。例え誰であろうと、彼女の悪口を言う人間は許さないからな」
「!」
あまりの言葉に、その場に立っているのがやっとだった。
「セラヴィ……」
今、目の前にいるセラヴィはまるで別人のようだった。
「ど、どうして……」
どうしてそんなに変わってしまったの……? そう問いたかったが、言葉が喉につかえてしまう。
「どうしてだって? それはこっちの台詞だ。ローズマリーはアンジェリカの異母妹だろう? それなのに何故彼女に酷い態度を取り続けているんだ?」
何処までも冷たい眼差しで問いかけてくる。けれど、アンジェリカには何のことなのかさっぱり分からない。
「一体何のことなの……?」
尋ねる声が震える。
「いつまでそうやって惚けるつもりだ?」
「だ、だって本当に分からないのよ……」
「チッ!」
するとセラヴィが舌打ちし、その態度がさらにアンジェリカの心を傷付ける。
「いい加減にしろよ! 知らないとは言わせないぞ! ローズマリーは言っていた。お前が屋敷を出て離れで暮らすようになったのは、自分のことを嫌っているからだって! それなのに、当てつけにあんなメモを渡してくるなよ!」
「え……? ローズマリーがそんなことを……言ったの……?」
あまりの話にアンジェリカの目の前が一瞬真っ暗になる。
「セラヴィは私の言葉より、ローズマリーの話を信じるの? 8年も一緒にいたのに?」
「年数なんか関係ない!」
セラヴィの怒声は周辺にいた卒業生たちに聞かれてしまった。
「何だ? 痴話喧嘩か?」
「卒業パーティーの前なのに……」
「あんなに怒鳴りつけて可哀想だわ……」
学生たちの囁き声が、アンジェリカとセラヴィの耳にも届く。
「クソッ! お前のせいで、俺が悪者扱いされるじゃないか。行くぞ!」
セラヴィがアンジェリカの右手首を掴むと歩き出す。
「待って! 何処に行くつもりなの!?」
「決まっているだろう? パーティー会場だ」
「ど、どうして!?」
「どうしても何もない! 今日、お前は卒業パーティーで俺のパートナーになるからだ!」
「そんなっ……!」
アンジェリカは絶望した――