「セラヴィ……」
すぐ近くに懐かしいセラヴィの姿がある。
(どうして、セラヴィが私を呼び止めるの……?)
アンジェリカにはわけが分からなかった。
少し前までだったら、セラヴィに再会できた喜びで駆け寄っていただろう。
けれど今のアンジェリカは違う。
ローズマリーがセラヴィの子供を身籠った……。
その事実がアンジェリカの心に暗い影を落とす。セラヴィを愛する心が粉々に砕けてしまったのだ。
「アンジェリカ!」
セラヴィは人混みを掻き分けてこちらへ近づいてくる。
「……っ!」
アンジェリカは背を向けると、急ぎ足で正門へと向かう。
セラヴィと話をするのが怖かったのだ。
「え!? お、おい! 待てよ! アンジェリカ!」
セラヴィの戸惑う声が背後で聞こえる。
(どうしてセラヴィが追いかけてくるの……? 早く逃げなくちゃ!)
歩きにくいドレスの裾をつまみ、人混みに紛れて逃げようとしたのだが……。
「おい! 待てって!」
右腕を掴まれ、無理やり振り向かされる。
「何で逃げるんだよ!」
セラヴィに掴まれた腕が痛くて、アンジェリカの顔がゆがむ。
「い、痛いわ……放して」
しかし、セラヴィは首を振る。
「いや、駄目だ。俺から逃げないと誓うなら放してやる」
「!」
それはあまりにも冷たい言い方だった。まさかセラヴィからそんな冷たい言葉が出てくるとは夢にも思わず、アンジェリカは恐怖を感じた。
「わ、分かったわ……。逃げないって誓うから……お願い。放して」
弱々しく言うと、ようやくセラヴィはその手を離した。
「あ、あの……」
恐る恐るセラヴィを見上げ、ゾッとした。
何故なら鋭い目つきでセラヴィがアンジェリカを睨みつけていたからだ。
「……」
アンジェリカは思わず言葉を無くす。
(どうして……? 何故セラヴィはこんなに怒っているの?)
理由がさっぱり分からなかった。
本来であれば裏切ったのはセラヴィなのだから、むしろ怒るべき立場にあるのはアンジェリカなのだ。
「どうして……」
セラヴィが悔しそうに口を開く。
「……え?」
「どうしてそんな粗末なドレスを着ているんだよ?」
まさかドレスの話を口にするとは思わず、アンジェリカは戸惑う。
「ドレスって……?」
すると、増々セラヴィの顔が険しくなる。
「何だよ、そのドレスは。俺は今日の卒業式の為にドレスを贈っただろう? それなのに何で、そんなみすぼらしいドレスを着ているんだよ!」
「みすぼらしいって……これはドレスを持たない私の為に、使用人達がお金を出し合ってプレゼントしてくれたドレスよ? そんな言い方しないで。それにドレスを贈ったって何の事? 私は何一つあなたから受け取っていないわよ?」
セラヴィに対して怖い思いはあったものの、ヘレナ達がお金を出し合って買ってくれたドレスを悪いように言われるのは我慢ならなかった。
「は? 惚ける気かよ? 俺はちゃんとアンジェリカ宛にドレスを郵送で送っている。それも1カ月以上前にな。それを着て一緒に卒業記念パーティーに出席しようと手紙迄添えてな! それなのに、返事は愚かドレスも来ていない。それどころか俺から逃げようとしただろう? 何故そんなことをした? 理由を話せよ!」
セラヴィはアンジェリカに怒りをぶつけてきた――