在校生からの送辞、卒業生の代表挨拶そして学長からの別れの言葉……それらが全て終わり、卒業式は滞りなく終わった。
「ねぇ、アンジェリカ。これからどうするの? 私は婚約者と待ち合わせ場所に行かなければならないのだけど……」
講堂を出ると、アナが躊躇いがちに尋ねてきた。
「そうだったのね? だったら待たせたらいけないわ。私に構わず行ってあげて」
「だけど……! ここでアンジェリカと別れたら、パーティー会場で会えないかもしれないじゃない! 私たち……卒業と同時にお別れなのに……」
アナが涙ぐむ。
アナはそのまま上の女子大学に進学することになっているが、アンジェリカは先行きが全くの不透明だった。
勉強が好きだったのでアナと同じく女子大学に通いたかったが、生活費すら援助してくれない父親に進学願を言えるはずも無い。
「あぁ、ほら。泣かないで、アナ。せっかく綺麗にお化粧しているのに取れてしまうわよ?」
アンジェリカがハンカチを取り出してアナの涙を押さえる。
今迄散々辛く悲しいことばかり経験してきたアンジェリカは、アナと違って悲しみに耐性が付いてしまっていたのだ。
「だけど……」
「大丈夫よ、卒業したからって会えないことは無いわ。だって私たち子供の頃からの親友でしょう?」
アナを安心させるために笑みを浮かべる。
「そうよね? 私たち……親友だものね?」
「もちろんよ」
「分かったわ。それじゃ私……行くわね。又パーティー会場で会えたらいいわね」
「ええ。それじゃまたね」
2人は手を振ると、アナは急ぎ足で婚約者の元へ去って行った。
「アナ……」
その後姿を寂しげに見送るアンジェリカ。
アンジェリカには分かっていた。恐らく卒業すればもうアナと会えることは無いだろうと。
何故ならアンジェリカは卒業後、ヘレナ達に負担をかけないように働きに出ようかと思っていたからだ。
今日、ここまで来た馬車だってクルトがお金を払って借りている。
もう裕福なアナとは住む世界が違うのだ。
それにアナには悪いが、パートナーも無しで卒業パーティーに参加するつもりも無い。
このまま、そっと帰るつもりだった。
アンジェリカのドレスは他の女子学生たちに比べて明らかに見劣りしている。
この姿で辻馬車に乗っても、それほど目立つことは無いだろう。
「さよなら……アナ。元気でね」
それだけ言い残すと、アンジェリカは正門に向かった――
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正門には、多くの男子生徒達と女子生徒達が集まっていた。
(この人たちは、きっとここで待ち合わせをしてパーティー会場へ向かうのね)
卒業パーティーの会場は女子学部の大ホールで開催されることになっていたのだ。
楽しそうに話をしている生徒たちの間をすり抜けて、正門を出ようとしたその時。
「アンジェリカ? アンジェリカじゃないか!?」
突然背後から大きな声で名前を呼ばれた。
しかもその声には聞き覚えがある。
驚いて振り向き、目を見張った。
そこにはセレモニースーツを着たセラヴィの姿があった――