「ウッウッウウ……ウッ……」
ローズマリーが去った後、とうとうアンジェリカは我慢できずに嗚咽まじりに涙を流す。
「アンジェリカ様っ!」
ヘレナは堪らず駆け寄ると、アンジェリカを抱きしめた。
「いけないわ……ヘレナ……私の風邪がうつってしまうから……」
しかし、ヘレナは首を振る。
「いいえ、そんなことはかまいません。むしろ、アンジェリカ様の風邪が早く治るのならうつしてもらっても構いません!」
「ヘレナ……え?」
顔を上げたアンジェリカは驚いた。何故ならヘレナも泣いていたからだ。
「本当に……ローズマリー様は悪魔のように酷い人です。風邪で体調の悪いアンジェリカ様にあんなことを言うなんて……人の心が欠落しているとしか思えません! 地獄におちてしまえばいいのに!」
「駄目、よ……そんな恐ろしいことを言っては……誰かに聞かれでもしたらヘレナの身が危ないわ……」
「アンジェリカ様は、お優しい方ですね……使用人である私の身を心配して下さるのですか?」
アンジェリカはコクリと頷くと、ヘレナは涙を拭った。
「分かりました。これからは不用意な発言は慎むようにいたします。先ほどより顔が赤いですね。もしかして熱が上がってしまったかもしれません。お医者様がいらっしゃるまで横になってください」
アンジェリカはベッドに横たわると、赤い顔でヘレナを見つめる。
「ヘレナ……」
「何でしょうか?」
「さっきのローズマリーの話だけど……」
「ローズマリー様の話ですか?」
ヘレナが顔をしかめる。
「どうしてセラヴィが訪ねて来てくれなかったのか、分かったわ……彼、私のことを怒っていたからなのね……折角セラヴィがプレゼントしてくれたドレスを私が屋敷に置いてきてしまったから……」
再びアンジェリカの目に涙が浮かぶ。
「いいえ、私は違うと思います。セラヴィ様がそんなこと思うはずがありません。アンジェリカ様があの部屋を気にいってらしたのは御存知だったのですよね?」
「ええ。そうよ。セラヴィには……何でも話していたから」
「それならきっとセラヴィ様はアンジェリカ様が強引に部屋を追い出されたことに気付かれたはずです。むしろ、ローズマリー様にドレスを奪われてしまったのではないかと疑っているのではないでしょうか?」
「本当に‥…そうかしら……?」
「ええ。私はそう思います。セラヴィ様がこちらに来れなかったのは、やむにやまれぬ事情があったからでは無いでしょうか。とりあえず今は風邪を治すことだけを考えてください」
しかし彼女も本心ではアンジェリカと同じことを考えていた。けれどただでさえ風邪で弱っているのに、これ以上不安な気持ちにさせたくなくて嘘をついたのだ。
「分かったわ。ヘレナがお医者様を連れてくるまで……眠って待っているわ」
アンジェリカが眠りに就くと、ヘレナはため息をついた。
(……それにしても、ニアもお医者様も遅いわね……。そう言えば、ニアが屋敷に行って電話を掛けているのがバレてしまったのだっけ。何か良くないことでもあったのかしら)
「まさか……ね。きっと考え過ぎだわ」
良からぬ考えを打ち消すかのように、ヘレナは首を振るとアンジェリカを起こさないように部屋の片付けを始めた。
けれど結局医者が来ることも無く、ニアも離れに戻って来なかった。
何故ならニアは重い罰を受けた挙句、追い出されていたからである——