額に冷たい何かを感じ、アンジェリカは目を覚ました。
「うぅ~ん……」
ゆっくり目を開けると、心配そうにのぞき込むヘレナと目が合う。
「ヘレナ……?」
「あ……申し訳ございません。起こしてしまいましたか? 顔が熱かったので冷たいタオルを額にお乗せしたのですが……」
「ううん、大丈夫。ありがとう、とても気持ちがいいわ……」
「具合はいかがですか?」
「そうね……喉が痛いわ」
眠りに就いた時は、喉の痛みを感じなかったが、今はズキズキと痛んでいる。
「やはり本格的な風邪を引いてしまったようですね。後でお医者様を呼びましょう」
「そんな、お医者様なんて大げさだわ。寝ていれば大丈夫よ」
「いいえ、そういうわけには参りません。風邪はこじらせると大変ですから。よろしいですね?」
「……分かったわ。ヘレナの言う通りにする」
「ところでアンジェリカ様。昨夜から何もお召し上がりになっておりませんが、お腹は空いておりませんか?」
尋ねられるも、少しも食欲は無かった。
「空いていないわ。何もいらない」
「まぁ、そうなのですか? でもそれではいけません。もうお昼を過ぎていますし、エルに話して何か作って貰いましょう。どんなものなら食べられそうですか?」
「そうね……」
アンジェリカは少しの間考えた。
「甘くて温かい物なら食べられそうだわ」
「甘くて温かい食べ物ですね? 分かりました。すぐに厨房に伝えてきますからお待ちください」
ヘレナは頷くと、急ぎ足で部屋を出て行った。
(ヘレナ……ありがとう)
アンジェリカは心の中でヘレナにお礼を述べた——
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エルが用意してくれた食事は温かいパンプディングだった。
「どうぞ。アンジェリカ様」
ヘレナはベッドテーブルを用意すると、アンジェリカの前に置いた。
「まぁ……美味しそう」
先程迄食欲が無かったが、甘い香りがアンジェリカの食欲を誘う。
「どうぞ、召し上がってください」
「ええ」
早速スプーンを手に取り、パンプディングをすくって口に運ぶ。
「……甘くて柔らかい。とても美味しいわ」
美味しい食事を口にすると、不思議と幸せな気持ちが込み上げてくる。先程迄暗い気持ちだったのが少しだけ浮上したようだ。
「それは良かったです。アップルシナモンティーもありますよ」
ヘレナは用意していたティーポットをカップに注ぐ。途端に室内にリンゴとシナモンの香りが漂ってきた。
「飲み物も、とても美味しそうね。後でエルにお礼を言っておいてもらえる?」
「ええ。勿論です。でも今日は食事を召し上がれて良かったです。皆心配していましたから」
「そうだったの? それは悪いことをしてしまったわ」
「皆、アンジェリカ様のことが好きなので心配するのは当然です。それだけ大切に思っているのですよ?」
自信を無くしているアンジェリカを元気づける為、いかに周囲から好かれているのかを強調するヘレナ。
「皆……? それって本当の話なの?」
「ええ、勿論本当です。なのでしっかり食事をして風邪を治しましょう。今、ニアがお医者様に連絡を入れに行っていますから」
「ええ、分かったわ」
アンジェリカは笑顔で頷くと、食事を再開した――