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第4章 14 寝覚めの悪い朝 1

 アンジェリカは夢を見ていた。


夢の中でアンジェリカはセラヴィと公園でデートを楽しんでいる。


『アンジェリカ、2人でボートに乗ってみないか?』


大きな池の前にやって来るとセラヴィがボートを指さし、アンジェリカは笑顔で頷いた。


『ええ、乗ってみたいわ』


『よし、それじゃ乗ろう』


2人でボート乗り場に来ると先にセラヴィが乗り込み、手を差し出してくれる。


『手に掴まって』


その手を掴もうとしたとき、突然脇から別の手が伸びてきた。


『え?』


驚いて振り向くと、いつの間にかローズマリーがセラヴィの手を取っていたのだ。


『おいで、ローズマリー』


『ええ、セラヴィ様』


笑顔でローズマリーはボートに乗り込むと、そのままセラヴィの胸に身体を預ける。


『え? セ、セラヴィ……? 何をしているの? 私をボートに乗せてくれるんじゃないの……?』


尋ねる声が震える。

けれどセラヴィはアンジェリカの声が聞こえないのか、見向きもせずにローズマリーを抱きしめた。

『愛してるよ、ローズマリー』


『私もセラヴィ様を愛しています』


2人は固く抱き合い……顔を寄せ合うとアンジェリカの目の前でキスをした。


『イヤアアアッ! お願い! やめて!』


あまりの光景にアンジェリカは悲鳴を上げた。

2人はアンジェリカの声が届かないのか、増々情熱的なキスを交わし続け……やがてボートがゆっくりと動き始める。


『待って! 行かないでセラヴィ! ローズマリー……やめて……お願いだから。他の物は何でもあげる。だから……どうかセラヴィを返してっ!』


しかしアンジェリカの訴えも虚しく、ボートは遠ざかっていき……霧の中に消えて行ってしまった。


『セラヴィーッ! お願い、戻ってきて! 私を置いて行かないでーっ!』


前も見えない真っ白な霧の中……アンジェリカは涙を流しながら叫び続けた——




****



「あ……」


不意にアンジェリカは目が覚めた。


「夢だったのね……」


ポツリと呟き、頬がひきつるのを感じた。


「?」

不思議に思って頬に触れると、涙の乾いた跡がある。


「涙……」


(私、夢の中で泣いていたのね。そう言えば、頭がズキズキ痛むわ……)


ベッドから起き上がろうとしたとき。


「ウッ!」


先程よりも強い頭痛が起こり、思わず呻く。


「酷い頭痛……それに何だか寒気がするわ……」


時計を見ると、時刻はもうすぐ7時になるところだった。


「ヘレナは今、忙しいかしら……」


その時。


「おはようございます、アンジェリカ様」


扉が開かれ、ヘレナが姿を現した。


「おはよう、ヘレナ……」


ベッドの中で弱々しく返事をすると、異変を感じ取ったヘレナがすぐに駆け寄って来た。


「アンジェリカ様? どうなさったのですか? 具合が悪いのですか? 赤い顔をしていますよ?」


「赤い顔……? それは分からなかったわ。……でも頭が痛くて……」


「頭が痛いのですか?」


「ええ。それに寒気もするし……」


「まさか……!」


ハッとしたヘレナはアンジェリカの額に手を置いた。


「熱い……熱があるよです。風邪を引かれたのですわ」


「風邪を……?」


風邪と聞いた途端、急激に具合が悪化していくように感じられる。


「ええ、今日は学校をお休みして、安静になさってください。今、頭を冷やす濡れタオルを

用意してきますので」


ヘレナはそれだけ告げると、慌ただしく部屋を出て行った。


パタパタと遠ざかって行くヘレナの足音を聞きながら……再び、アンジェリカは眠りに就くのだった——



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